128回目 冒険者は生存という究極の損得勘定をする
冒険者達は迷い始めていた。
危ないところを助けられたと思っていたのだが。
現在の危機を起こしたのは仮面の存在自身によるものだと言うのだ。
それが本当であるなら、助けてもらった事を感謝するわけにもいかない。
ダンジョンの崩壊がなければ、こんな危機は起こらなかったのだから。
しかし、だからと言って袂を分かつわけにもいかなかった。
事を引き起こした元凶であり、許すつもりにはなれない存在ではある。
だが、現実問題としてここで分かれるわけにはいかない。
ダンジョンから出るためには、共に行動した方が有利だ。
目の前の仮面の持つ力はそれだけ巨大だ。
崩壊し消滅していくダンジョンから脱出するには必要だ。
冒険者達もそれくらいの計算は出来る。
自分達だけでここから脱出出来るわけがないと。
死亡率の高い冒険者をやっていて、これまで生きてきたのだ。
最低限の智慧は回る。
生存本能に優れてると言っても良い。
そんな彼等だからすぐに考える事が出来た。
『目の前の存在がいなければ生き残る事は無理だ』という事に。
なので、少しの間は自分の気持ちを押し殺そうとも考える事が出来た。
何時までも一緒というつもりもない。
仮面の存在は、他の冒険者を回収すると言っている。
少なくともそこまでは同行しておきたいところだった。
他の者達と合流し、それなりの戦力になったならば、仮面の存在と分かれる事も出来る。
そうなれば、合流した冒険者と出入り口を突破する事も考えられる。
出来るかどうかは分からないが、数が揃っていれば成功率は高くなる。
なので、それまでは仮面の存在と一緒にいた方が良い。
打算と妥協による考えだが、生き残るためにはそうした方がいい。
だから冒険者達はついていく。
同時に、仮面の存在の戦闘力についても考えていった。
本当かどうかは分からないが、ダンジョンの中枢を破壊したという。
もしそれが本当なら、とんでもない戦闘力を持つという事になる。
どれだけのレベルなのか、どんな能力をもってるのか?
いったいどれほどの技術を身につけてるのか?
それが気になってしまう。
その一端は既に見ている。
地面を隆起させ、モンスターを一網打尽にしてったのを。
それだけでも隔絶した能力を持つ事が窺える。
口先だけではない、しっかりと示された事実である。
なので、仮面の冒険者の実力を疑う事は出来ない。
敵に回れば最悪だが、味方であるなら心強い。
それがダンジョン脱出までは仲間であるというのだ。
ダンジョンの中枢を破壊する事が出来る者がだ。
(どうしたもんかな?)
自分達をこういう状況に追い込んだ事と、ここから脱出する事と。
原因を作った事を考えれば、目の前の存在を許す事は出来なかった。
もし分かっていれば、多少は対策がとれたかもしれないのだから。
今日はダンジョンに入る事を控えていたかもしれない。
しかし、それはもうどうにもならない。
時間をさかのぼってやり直しが出来るならともかく。
今は目の前の状況をどうするかを考えねばならない。
そうなると、仮面についていった方が良い。
それが出来ないなら、ここで別れるしかない。
周囲をモンスターに囲まれた、危険過ぎるこの状況で。
そこをどう切り抜けるかは、冒険者達次第という事になる。
無言で考えた結果、彼等は仮面の存在についていく事にする。
先々はどうあれ、今は生き残るのが先決である。
ならば、目の前の仮面についていった方が、まだしも可能性がある。
そちらにまずは集中する事にした。




