123回目 特に不思議も何もない、彼等の末路
(何がどうなってる?)
トモルに叩きのめされた冒険者の一人は混乱している。
いまだに現実を正確に認識出来ないでいた。
どうなってるも何も、今の現状が事実であり真実でしかない。
それを正確に把握する事も出来ず、ただ疑問を浮かべる。
彼はどうして自分がこんな事になってるのかすら正しく理解してないのだ。
あるいは、理解したくないのかもしれない。
我が身に起こってる事を。
現実逃避である。
だが、そんな事をしても、彼の置かれた現実は変わらない。
(だいたい、あんな格好してる方がおかしいだろ)
そんな事すら考える。
実に身勝手なものだ。
だが、冒険者からすれば、それはおかしな事でも何でもない。
朝、ダンジョンの前に風変わりな奴があらわれた。
フード付きマントに仮面、背中には身長より大きな刀剣を担いでいた。
しかも、背丈は子供と同じくらい。
だが、目の前にいた奴が何者であろうと、冒険者達にはどうでも良かった。
見たところ一人だけ、しかも大して強くもなさそう。
背中に担いだ刀剣は気になったが。
それもこけおどしか何かだろうと高をくくった。
だから、絡んでいたぶって遊ぼうとした。
その考えがおかしなものであるとも全く思う事もなく。
彼等からすればそれが普通であり、正常な思考だったからだ。
強い奴が偉い、偉い奴は何をしても良い────単純明快な思考だ。
そんな彼等にとって、目の前にいるのは面白い遊び道具にしか映らなかった。
だから絡んでいった。
まさか反撃されるとは思いもせずに。
そして今に至っている。
気が付けば手足は壊されている。
ここに来るまでの間に引きずられたせいで、体中に痛みが走ってもいる。
それどころか、手足を折られて曲げられている。
逃げる事など無理だとしか思えない。
それでも、少しは何とかしようともがいていく。
少しでもこの場から遠ざかり、身を隠せる場所があるならそこに潜んでおきたい。
そう思ってる間にも、仲間が次々に連れ去られていく。
どこに何しにいってるのか分からない。
ただ、それが良い結果に結びついてるとは思えない。
だから冒険者の一人は必死になって這いずっていく。
なんとしても生き残るために。
手足はまともに動かせないが、這いずってでもその場から逃げようとする。
その様は芋虫のようであった。
幸いにも彼は、この中で最も長生きが出来た。
何せ、7人いた仲間の中で、最後に担がれていく事になったのだから。
時間にすれば数分、ぎりぎり10分になるかどうかという差でしかなかったが。
それでも彼は、他の誰よりもこの世に留まった。
そんな彼はトモルに担がれていく。
その先がダンジョンの中心だとも知らずに。
無造作に放り投げられた。
大の男を、贅肉ではなく筋肉で体が分厚くなってる大人を。
それを、文字通りに放り投げたのだ。
男は放物線を描いて十数メートルは飛んだ。
そして、その先の地面に叩きつけられる……事はなかった。
そこに屯していたものの背中に落下した。
地面の上にひろがっていたそれのおかげで、男は落下による衝撃の大部分を免れた。
だからと言って男は幸運だったというわけではない。
落下による痛みが無かっただけで、辿る運命が変わるわけではない。
トモルが放り投げた先にいたのは、中枢モンスターであるボスが生み出した幼虫たち。
生まれた直後からある程度成長したものまで、たくさんの昆虫型モンスターがいた。
それらが幼虫である事を男は知らない。
だが、自分が数多くのモンスターに囲まれてる事は即座に理解した。
そして、仲間がどういう運命をたどったのかも同時に悟った。
目に見える範囲にはいないが、おそらく自分と同じような目にあってるのだろうと。
つまり、モンスターの餌になってるのだろうと。
「ひ…………」
悲鳴を上げそうになる。
だが、それも即座に封じられる。
開いた口の中に、幼虫のモンスターが飛び込んだのだ。
男は思わずそれを飲み込んでしまう。
飲み込んでから、自分が何をしたのかを察知し、すぐに吐き出しそうになった。
だが、そんな余裕は無い。
ありとあらゆる方向から迫ってくるモンスターが男をついばみ始めたのだ。
防具のない男にそれらを防ぐ手段は無い。
「いぎゃあああああああああ!」
悲鳴が上がる。
その口に小さなモンスターが入っていくのだが、それを防ぐ事も出来ない。
あまりの痛みに悲鳴を抑える事が出来ない。
そうして体内に入り込んだモンスターが、男を内側から食い荒らしていく。
腹の中に飛び込んだモンスターは、胃酸にまみれながらも男を食い始めていく。
体の中から何かが蝕んでいく感覚と、肌から貪られていく痛み。
その両者が絶えることなく冒険者を襲った。
それは、モンスターに負けた冒険者が辿る末路の一つであった。
決して珍しい事ではない。
その末路の一つを辿りながら男は、この痛みが早く終わるよう願った。
幸いな事にそれは程なくかなう事になる。
全身を食い散らかされていく男は、すぐにその命を終える事になるからだ。
だが、無意識に願ったもう一つの望みは叶う事は無い。
無事に生きてここから逃げ出すという事は。
体が引き裂かれていく。
腹の中で何かがうごめいている。
あまりにもおぞましいその感覚に襲われながら男は思う。
(どうしてこうなった……)
理由は明白であるのだが、持って生まれた彼の性質や思考は答えに辿りつく事はない。
何の理由もなく、平然と他者に危害を加えようとした。
それがこうなった原因である事に。
彼等からすれば、それの何が悪いのかという事になる。
強い者が弱い者を虐げる事など何の問題も無い、当たり前の事なのだから。
そして、そんな彼等の常識通りになってる。
彼等が陥った現状は、何一つ不思議ではない。
強い者が弱い者を虐げてるのだから。
トモルという強者に虐げられ。
モンスターという強者に虐げられている。
それは彼等の常識に当てはめれば、当然過ぎるほど当然の結末だった。




