107回目 トモルの求めるところ
冒険者達からすれば、自分達の要望を伝えたいのだろう。
トモルが先に進み過ぎて、追いつくのが大変、というのはその一つだ。
他にも色々とある考えを出せる場所をほしがっている。
特に仕事に関わる部分は。
トモルもそれには対応したいところではある。
今後の彼らとの関係を考えればなおの事。
彼等はもしかしたら実家で活動するかもしれないのだ。
そんな彼らとは、多少なりとも良い関係を作っておきたい。
だが、今はその余裕がない。
そもそもとして、話し合いがそれほど必要だとも思えない。
それが害悪にしかならないと考えてもいるからだ。
要望の一方的な押しつけ。
それがトモルの懸念してる事である。
仕事をこなす上で、必要になる事の確認や調整ならまだ良い。
だが、人間とはそうした事だけをするとは限らない。
むしろ、自分の言いたい事ややりたい事を押し通す。
話し合いといってそれを押しつける。
大半の人間はそういうものだ。
つまるところ、それは仕事の話し合いなどではない。
己の要望だけを口にするだけだ。
(会議なんてのもなあ)
それが有効なものだとはとても思えない。
トモルの知る会議とは、結論を出さないままダラダラと続けるものだ。
あるいは、自分の言いたい事を押しつける場所だ。
そんな事をやりたいとは思わない。
それが偏見であるかもしれないとは思う。
何せ、実効性のある会議に参加した事などないのだ。
今生はもとより、前世でも。
なので話し合いの場とについての正確な情報がない。
このあたり、社会の下っ端として生きていた限界がある。
だが、数少ない経験と記憶からして、話し合いに良い所があるとは思わない。
無駄に時間をついやすだけに終わる。
(どうせ我が儘しか出てこないだろうし)
トモルにとっての話し合いとはそんなものでしかない。
互いの言い分や考えを出していくわけではない。
出した考えを元に、よりよい何かを作るわけではない。
自分の都合を出し、相手を丸め込み、あるいは凄んで引き下がらせる。
自分の都合を押しつける。
自分の有利な状況を手に入れる。
それが話し合いといわれるものだった。
何一つ話し合ってない。
我が儘を表に出して喧嘩してるだけである。
それらが人のいる所で、更に意見を出し合うなどと称して行われる。
そういったものをよく目にした。
人が集まる場所では、だいたいそうなっている。
おそらく、これが人というものなのだろう。
どこまでも自分勝手。
トモルは人間をそういうものだととらえていた。
せめて互いの利害を調整出来ればと思うのだが。
そんな事決して望めない。
決めねばならない事がいつまでも決まらず。
そして、やらねばならない時にやるべき事をやれないで終わる。
それをもたらすのが話し合いだ。
残念な事にこの考えを覆すような出来事など見た事がない。
だから、話し合いなんてものをするつもりになれなかった。
なんでそうなのかと思う。
そこまで自分が大事なのか。
自分の固執してる何かが大事なのか。
こだわるほど、自分の考えが適切なのか。
そう思うのだが。
そこを解消出来ない限り、話し合っても無駄に終わる。
そして人間とは、ここを越えられない。
よりよい何かを見つけようともしない。
そんなもの、求めてもいないのかもしれない。
己の全てを押し通せれば、それで良いのだろう。
だから話し合いは無駄に紛糾する。
憤りや罵声や怒号が飛び交うようになる。
そこまでいかなくても、その直前の状態には陥る。
ほとんど全ての場合において。
無駄で不毛な、時間と労力の無駄づかい。
そうでなければなんなのか。
冒険者側が求めてるものも、そういったものに思えてならなかった。
やってみなければ分からない事だが。
しかし、あえて試すほどの価値があるとは思えない。
きっと、全てが無駄に終わる。
それくらいなら、決定事項を伝えるだけで良い。
無駄な争いはそれで無くなる。
なまじ対等の立場であれこれ言うから面倒が起こる。
それなら、上位に立って指示を出した方が良い。
それはそれで問題があるだろう。
しかし、無駄に時間を費やさないだけマシだ。
だからトモルは冒険者の申し出を断った。
「やる事はかわらない。
話し合う事もない。
今日も昨日と同じようにやる。
イヤならついてこなくていい」
トモルはそう答えた。
冒険者はそれを聞くとため息を吐いた。
納得出来ないのだろう。
無理もない。
しかし、トモルも譲るつもりはなかった。
これ以上の面倒は御免である。




