104回目 おいてけぼり
その日、トモルは積極的にモンスターを倒していった。
少しでも多くの路銀を提供するために。
強化魔術で身体能力を上げてダンジョン内を走り回る。
探知魔術で見つけたモンスターの群れに突進していく。
モンスターの集団はその度に壊滅していく。
そうして倒れたモンスターに、後を追ってくる冒険者が殺到する。
手早く核を手に入れるためだ。
冒険者達は必死になってトモルについていく。
能力強化されたトモルを追跡するのは、それだけでも大変だ。
だが、決して見逃すまいと食いついていく。
トモルも、そんな冒険者達に追跡の目印を残していく。
学校近くのダンジョンでやってるように、目印の旗を地面に突き刺していく。
このダンジョンも草原のような内部をしてるので、旗をさすのに困る事は無い。
その旗を目印に、冒険者はひたすらついていく。
なかなか異様な光景だった。
一人で進むトモル。
その後ろについていく大量の冒険者。
ある者は核を回収し、ある者はトモルを追いかける。
それを交互に繰り返して、モンスターの死骸をあさっていく。
町の冒険者がほぼ総出でこの作業をこなしている。
そうでもしないと、トモルに追いつけないのだ。
土台となる能力の違い。
加えて、魔術による強化。
それにより、尋常ではない能力を手にしているトモル。
後ろについていくだけでも難しい。
気を抜くとすぐに見失ってしまう。
だから、冒険者は人数にたのんで後を追っていた。
一人が見逃しても、別の誰かが見ていられるように。
誰かが核を切り取ってるなら、別の誰かがトモルを追いかけるように。
そうして協力しなければ、トモルについていけない。
「急げ急げ!」
そんな声があちこちから上がる。
「おい、もう行っちまったぞ」
「なら、追いかけろ」
「こっちは俺達がやる」
「遅れるなよ」
怒鳴り声がそこかしこからあがる。
そうして誰が何をやるのかを決めていく。
黙っているわけにはいかなかった。
やることが分からず戸惑ってると、それだけで時間を無駄にする。
トモルに置いていかれる。
「おい、そろそろ後続がくるはずだ」
「分かってる。
そいつらは俺がつれてく」
「先に行ってる奴はわかってるな」
「まだ見える範囲にいるよ」
「よし、そいつらと合流していってくれ」
旗だけではなく、中継として人が残るようにもしている。
そういった者達が、先に進んだトモルへの道案内をしていく。
「何がどうなってんだ」
頭が混乱する者も出てくる。
走って、核を切り取って、また走って。
その連続だ。
今、何がどうなってるのか分からなくなるのも無理はない。
「考えるな!」
適切な助言が飛ぶ。
「考えたってわからねえ。
それより、目の前の仕事だけ見てろ」
もうそうするしかない。
「今度はあっちか……」
先に立つ者、残された旗。
それを見ながら冒険者は走る。
自分達が今どのあたりにいるかも分からず。
ただ、ひたすらに目の前の目印をおいかける。
だんだんと、それしか考えられなくなっていった。
そんな苦労をしてダンジョンから外に出て。
彼らはモンスターの核を持って帰還した。
何がどうなってるのか、詳しくおぼえてる者はいない。
ただ、手にした核だけが今日の成果をしっかりとあらわしていた。
苦労をしたおかげか、結構な数の核が手に入った。
稼ぎは上々だ。
だが、苦労や労力に見合ってるかは分からない。
「なんか、戦うよりきつくないか?」
「お前もそう思うか」
「俺も」
「そんな気がするよな、本当に」
ぼやき声も上がってくる。
だが、手にした核は確かにそれなりにある。
当分の宿泊や路銀に困る事はない。
あと少し頑張れば、別のダンジョンに向かう事も出来そうだった。
ただ、それだけの猶予があるのかどうか。
トモルは、明日明後日にはダンジョンを攻略するという。
だとすれば、そんなに時間はない。
残りの時間で、必要な資金を確保しなくてはならない。
結構な金額を稼ぎはしたが、更に上のせしておきたかった。
余裕はあった方が良いのだし。
それに、今しかこんなに稼ぐ事は出来ない。
トモルの尋常ではない能力。
あっさりとモンスターを殲滅する強さ。
それがあって成り立ってる事だ。
同じような事は二度と出来ない。
だから冒険者もこの機会を利用していく。
少しでも多くの核を回収し、少しでも多くの稼ぎを得ようと。
「でも、やっぱり他に移るしかないんだな」
稼いだ金を見ながらそんな事も漏らす。
ここまでやってくれるのは、それが理由だからだ。
また、トモルの強さを実際に見て思った。
こいつなら、一人でもダンジョンの中枢を撃破するだろうと。
「腹をくくっておかないとな」
ここでの暮らしも長くはないと。
「どうなるんだろうな、これから」
「さあな」
誰もが不安をおぼえる。
別の所で上手くやっていけるかどうか。
どうしても心配してしまう。
しかし。
「行ってみるしかないだろうな」
他にあてのない彼等は、トモルが示した場所に向かうしかない。
「あとは、俺ら次第だろうな」
「ああ」
「やるしかねえよな」
冒険者は誰もが別のダンジョンへの移動に向き合っていった。




