103回目 彼らの事情 5
トモルはダンジョンを破壊するという一点を決して譲らない。
崇高な理由があるからではない。
それは確かだ。
だが、わざわざダンジョンを存続させる理由もない。
破壊出来るならさっさと破壊した方が良いものなのだから。
それを止めようとする者に合わせるつもりはなかった。
妥協は結局良い結果にはならない。
結局どこかで破綻する。
第一、ダンジョンの破壊と存続。
そこにどんな妥協があるのか?
ありはしない。
無いものを求めても無駄なだけだ。
「俺はどんな事をしてもダンジョンを攻略する。
ダンジョンを破壊する」
あらためてハッキリと伝える。
「邪魔するっていうなら、それでもいい。
俺はあんた達を倒してやりたい事をやる」
呼び止めた冒険者達にそう言って、トモルはダンジョンへと向かおうとする。
「今日も手当たり次第にモンスターを倒していく。
核には興味がないから、それはあんたらが好きにすればいい。
ダンジョンを破壊するまでに出来るだけ稼いでおけ。
路銀にはなるだろうからな」
それを聞いて冒険者は考え込む。
目の前の仮面をかぶった小さな存在に勝てるとは思えない。
一斉に襲いかかればどうにかなるかもしれない。
だが、それも分の悪い賭けにしかならないのも分かってる。
だから強硬手段に出る事が出来ない。
だが、そんな奴がダンジョン内のモンスターを倒して回ると言っている。
モンスターの核には興味がないとも。
ならば、労せずして核の取り放題である。
稼ぎ時ではあった。
しかも、本当にダンジョンを破壊するならばだ。
別の場所への移動も考えなくてはならない。
癪に障る話だが、路銀は確かに必要になる。
それを稼ぐには、倒されたモンスターから核を回収した方が手っ取り早い。
冒険者達は考える。
仮面のかぶってる得体の知れない相手と戦うか。
それとも、言う事を聞いて路銀を手にして他に移動するか。
どちらが良いかは、考えるまでもない。
もっともそれは、本当にダンジョンを攻略・破壊出来るかどうかにかかってる。
「なあ、本当にダンジョンを攻略するのか?
つーか、出来るのか?」
「やるつもりだ。
出来るかどうかは分からないけど」
「失敗したらどうすんだ?」
「その時はその時だ。
俺は死ぬだろうし、ダンジョンはそのまま。
あんたらは稼げる場所を失わずに済む」
「なるほど」
冒険者もそれに気付いた。
もしダンジョンがなくなったら、他の所に移動するしかない。
その時の為に、路銀は稼がねばならない。
だが、もし攻略に失敗したなら?
その時はダンジョンは今まで通り。
それでも、核を手に入れておけば、労せずして金が稼げる。
決して悪い話ではない。
「分かった、あんたの言う通りにする」
冒険者は色々考えてそういう結論に至った。
「おい、他の連中にも伝えておく。
ここは諦めて新しい場所に行くようにな。
あと、路銀はあんたが倒したモンスターから手に入れるようにって」
「そうしてくれ。
俺も助かる、そうしてくれると」
それで話はついた。
「じゃあ、今日もよろしく。
路銀を調達するためにもな」
「分かってる。
出来るだけ人を集めてくれ。
取りこぼしが出るからな」
「確かに。
昨日は大変だったよ、あんたについていくのが」
冒険者はそう言って笑った。
「皆を集めてくれ。
この人についていくぞ。
それと、引っ越しの準備もさせておいてくれ」
あちこちでそんな声があがる。
全員、覚悟を決めたようだ。
それを見ていたトモルは、嬉しそうに言う。
「出来るだけ大量に倒すから、後の処理はよろしく」




