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アルレシャ

ここ最近、“藍色の海”の海面がどんどん下がって行ってる気がする。

海の中で生きる者として、これは非常に不味い事態だ。先の生活も不安になって来る。



僕は“魚座”。正確にはこれが僕の名前という訳では無く、クラスと云うよりも、教室にある一つの席みたいなものかな。


本当の名前――真名は“アルレシャ”。

神話では“エロス”と呼ばれるらしいんだけど、それは僕のひいひいお爺ちゃん。


ひいひいお爺ちゃんは凄く遠い昔に亡くなっている。僕のお爺ちゃんやお婆ちゃんも、僕が生まれた頃には既に亡くなっていた。

そして、ついこの間まで唯一の縁者だった父さんも死んじゃって、兄弟は居ない(正確に云えば、妹が居るので語弊があるけど、ここでは親戚の間柄に当たる)から、家族はもう僕一人だけ。

親戚は居るには居るんだけど……、色々事情があって、僕以外に魚座の席に着ける人が居ないみたい。


魚座の席に着くと云っても、そんなに難しい事じゃない。

ただ椅子に座ってのんびりしたり、庭園の周辺を走り回ったり、面白そうな本があったら読んだり、得意なハーモニカを吹いたり、好きな事が色々出来る――“魚座の庭園”から離れなければ。


勿論、仕事はある。

神の中の神――ゼウス様から送られてくる手紙や書類を目を通して、必要があれば魚座の者にしか押せない“魚座の印”を押す事。

流星の刻に行われる“黄道十二の儀”に出席する事。これは魚座が黄道十二星座の一つであるかららしい。


魚座の庭園から離れられるのは、黄道十二の儀の時だけ。それ以外に離れる事は出来ない。

というか、出来る筈が無い。ゼウス様の特殊な魔法に寄って、元の場所へ強制的に戻されてしまうのだから。

自由だけど、不自由な空間だ。しかし、ゼウス様に抵抗するのは非常に難しい。



今日はハーモニカを吹いていた。


何処か遠くの地を見つめる様な音色を出している。

……そう、“彼女”に会いたいから、こんな音色を出している。

でもきっと叶わない願いだと思う。――“星の掟”がある限り。



ゼウス様も知らない(筈だと思うけど、何処かから見て見ぬ振りをしているかもしれない)秘密がある。


得意なハーモニカの音を使って、誰かと会話出来る事。


吹いているハーモニカの音色が感情そのものになり、また曲が言葉そのものになる。僕にもよく分からないけど、そういう原理で出来ているらしい。

秘密の会話手段だ。但し、会話出来るのは、一人の女の子だけだ。

それ以外に、他の星座の人と手紙などでのやり取りは、黄道十二の儀で会う事の出来る星座以外とは出来ない事になっている。


先述の“彼女”、そして会話の相手は“ウェヌス”という女の子。

少し離れた位置の星座に住んでいるらしい。

彼女はピアノの音を使って、僕にメッセージを送ってきている。



ある日、ハーモニカをいつもの様に吹いていたら、その音に対して返事を返す様なピアノの音が何処か遠くから聞こえた。最初は耳に何か異常が起きているのかと疑問に思っていたが、その疑問は黄道十二の儀で会う星座――水瓶座との会話で解決した。


「いつも僕の目と鼻の先の近くにある星座で、ピアノを弾いている女の子が居るんだ。とても上手で、その音が好きでずっと聞いていたいから、水瓶から水を流してあげているんだ。彼女、水が無いと生きられないから、僕の役目は大きいなぁって感じているよ」


初めは水瓶座の存在に凄く憧れを感じていた。



何千回目かの黄道十二の儀が終わって、自由時間が出来た時。

聞こえたピアノの音をハーモニカの音に変換させて、水瓶座に聞かせてあげたら……


「あれ? その曲……、ピアノの音で聞いた事がある様な……」

「うん? そうだよ。実は最近ピアノの音をよく耳にする様になってさ」

「えぇ!? 凄いなぁ……。じゃあ、僕はギター弾くからそれで会話を交わそう!」


と、そんな成り行きで、彼とも楽器の音に寄る会話を交わそうとしたが、何故か彼のギターの音を耳にする事は無かった。しかし全く会えない訳では無いので、これを切っ掛けで良い感じに友好を深めれていけれたらと思う。


未だ会った事の無いウェヌスと、楽器の音でやり取りをしている内に。

僕の中でウェヌスに会いたい気持ちは募っていき、いつの間にか彼女に恋心を抱く様になっていた。



それで、意図的に話を逸らしてしまったけど、ここで僕の母さんについて語ろう。

その前に、ひいひいお爺ちゃんのお母さん――“アプロディテ”は“南の魚座”の席に着いていたんだって。もう遠い昔に亡くなっちゃっているんだけど。

ひいひいお爺ちゃんが亡くなっているのだから、当然と云っても良いのかな……。


“星の掟”が書かれた本に寄ると、“星座に着く者の死亡”は“その星座の消滅”を意味する。

星座は席に着く事で、その星座の維持を保つ。

席に着けるのは、その星座の血族に当たる者だけ。


そして南の魚座は、魚座の母に当たる人、或いはその娘が席に着く決まりになっているんだ。

つまり、母さんは星の掟に寄って、南の魚座の席に着かないといけない訳で、魚座の席に着く事が出来ないんだ。

実を云えば、母さんも死んじゃってて、先に述べた様にお婆ちゃんも亡くなっている訳だから、本来なら

南の魚座の席は“空席”=“星座の消滅”になる。


しかし、南の魚座は水瓶座の下で“未だ存在している”。

では、誰が座っているのかと云うと……


先に兄弟は居ないと述べていたが、僕にとって唯一の血縁者である、妹だ。

……僕の母さんから生まれたから。


またしかし、僕の父さんとの間柄で生まれた訳では無く、僕の母さんが再婚した相手――“水瓶座”との間で生まれたので、正確には、僕の妹に当たる筈“だった”親戚の女の子という事になる。

どちらにしても、家族で妹と呼んで良いだろうと思うんだけど、……ゼウス様は許さないらしい。

女の子が生まれた後、僕の母さんは直ぐに死んでしまい、彼女は早くも南の魚座の席に着く事になった。

その子が、今楽器の音を使って会話している相手の女の子――“ウェヌス”。


非常に複雑だ。最初はこの状況に何処か憎んだりもしていたが、今となっては如何でも良くなっている。

こうして楽器の音を使って会話出来るのだから。ちなみに水瓶座との仲はそんなに悪く無い。

先に述べた様に、親戚が居ても、星の掟に寄って決められた席に着かないといけないので、他の誰かが魚座の席に着く事は出来ない。


だから、魚座は僕以外に居ないんだ……。

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