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騒乱の収拾

 真影のいるあたりにはまだ騒ぎが届いていないが、それでも周囲がなんとなくざわついているのを感じた。

 襲撃はとっくに終わっている、おそらく捕らえた連中から首謀者を割り出して、それを捕らえに行った帰りというところかと真影は計算する。

「あっけないことだ」

 呟いた。しかし真影の顔に表情はない。

 今頃は自分たちの住む館も相当なことになっているだろう。

「やれやれ、掃除を頑張らないとな」

 仮にも犯罪者を捕らえるのに、足元に注意などしないだろう、土足で踏み込んだに決まっている。

「河真影、呼び出しがかかっている」

 自分よりいくらか年上の官吏が真影を呼び出した。

 真影は寝台から身を起こした。

 寝巻には着替えていない、軽く髪を整えればすぐに出られるだろう。

「河真影、参ります」

 そう答えて、軽く身づくろいをする。

 そして歩いていくうちに物音が大きくなるのが分かった。

 玄関近くになれば怒号が響き渡る。

「真影っ」

 藩冠黎の声がした。

 真影は無表情に彼を見返す。

 真影が一向に縄をかけられる様子もないのをいぶかったのか、怪訝そうな顔になる。

 斎宗園が真影に近づくと真影は深々と頭を下げる。

「いや、君のおかげで助かったよ」

 それでようやく真影が、裏切ったと悟ったのだろう。

 真影ははっきりと相手の顔を見てそのまま無表情なまま動かなかった。

「嘘だ、どうして」

 そう言って深々は床にうずくまって泣き崩れた。

「どうして、ね、どうしてその言葉が出てくるんだろうね」

 真影はそういうと深々を見下ろした。

「一度は助けた僕を裏切ったのは君だろう、それで二度助けるほど甘い性格はしていないんだ」

 冷たくそう言って再び藩冠黎に視線を戻す。

「逆恨みで陥れようとする人間に、慈悲をかけるほどもね」

 張り付いたような無表情がようやく崩れる。嘲笑に。

 つかみかかろうとした藩冠黎は再び組み伏せられる。

「それで、君は何をしてくれたのかな」

 ひくひくとこめかみを引きつらせながら寧州長官がやってきた。

「いや、災難ですねえ、中央から追放されて、凝りもせずにここでもいろんな悪事を働いていたらしいですよ」

 唇を引きつらせる笑みを浮かべたまま長官は真影の頭をつかむ。

「そういうことは、先に私に話を通してくれないかな」

 ギリギリと握りつぶす気持ちがこもった指先に真影の頭はかなりいたんだが、表情を根性で変えない。

「次は、真っ先に私に知らせるように」

「次はないことを祈ります」

「まったくだね」

 そして改めて表情を引き締めた。

「焦ってどうなるものでもないよ、地道に地歩を固めるしかない」

「肝に銘じます」

 真影はそう言って頭を下げた。

 立ち去っていく真影を追いかけようとする斎宗園を呼び止める。そして相手にだけ聞こえるように小さな声で囁いた。

「ああ、君に話しておかなければな、彼には姉がいてな、もはや名を呼ぶことも許されぬ身分で、芍薬と呼ばれている」

 その言葉に相手の顔から血の気が引いた。

 これでいい、多少問題があっても自分に忠実な部下の命は守らねばならない。

 完全に妙な木から覚めたであろう相手に安どのため息をついた。

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