秘密の朝食
ついに勝ち取った、美蘭は勝利に胸躍らせた。
美蘭はついに、自分の手で朝食を作る権利を勝ち取ったのだ。
美蘭の住まう芍薬の間には、美蘭が使う部屋のほかにお茶などを用意する給湯室と浴室もついている。
つまり火が使えるのだ。
水は定期的に持ち込まれる。それなら適当な食材を持ち込めば料理は可能だ。
しかし、女官長の強硬な反対により、調理器具の持ち込みと食材の要求はなかなか通らなかった。
芍薬の名を持つ妃が料理などとそちら方向の反対もあった。
しかし美蘭は負けなかった。
毒見済みの冷めきった食事はもうたくさん、ちゃんとしたご飯が食べたい。
後宮というところは衣食住のうち衣と住は異様に充実しているのに、食に関してはあまりにも蔑ろになっていると思う。
美蘭のその要求が王にも届き、晴れて美蘭は給湯室を調理場として使う権利を有したのだ。
その結果、茶の入れ方を徹底的に習いなおすという義務も課せられたが、それくらいは小さなものだ。
冷やかしておいた米を土鍋に移し、粥の支度をする。
給湯室といってもここは美蘭の自宅の台所より設備が整っている。
粥と副菜の準備をしていると、王が覗き込んだ。
「あれ、戻ったのではないのですか?」
確かに昨夜この部屋に泊まったが、普段はさっさと政務高自室高に還るはずだ。
「食事があるんだろう」
真顔で美蘭が火にかけている土鍋を見ている。
つまり二人分朝食が用意されていると王は認識しているらしい。
美蘭の顔から血の気が引いた。
米は一人分見当で冷やかしてある、二人分なら足りない。自分の分をあきらめて王に粥を進呈するか。多分断るという選択肢はない。
しかし美蘭はあきらめなかった。
「申し訳ありません、少々取り込んでおりますの」
素早く食材を確認する。粉がある、なら練り物が作れるはず。
そして後は、
美蘭は食後のお茶用のお湯と粉を合わせ、素早く練り上げた。
粥と粉を練り上げて薄く焼いた餅を食卓に並べる。
粥は小さな器に盛りつけ、餅を中央に。
緑の野菜が細かく刻まれ混ぜられた餅はかなり美しくできたと自画自賛してみる。
「やはり許可して正解だったな」
うんうんと頷きながら粥を掬う。
つまり最初から自分のために美蘭に許可を出したのかと内心イラっとする。
王自身冷たい食事には飽き飽きしていたらしい。
簡単な粥と漬物でも、温かいだけでご馳走と二人はいそいそと食べる。
餅をちぎりながら王は怪訝そうにつぶやく。
「こんな野菜あったか?」
「あれ、そんなに珍しいものでもありませんけどねえ」
美蘭はすました顔で言う。
餅に混ぜ込まれた野菜、それが庭で摘んだ野蒜だと美蘭は言うつもりはなかった。
父親のせいで、道で生えている草をおかずにする羽目になることが何度かあったので、美蘭は食べられる雑草に詳しかった。
王は満足げに食後のお茶を飲みつつ、簡単な雑談をかわす。
そして美蘭は翌日の朝食の献立に思いをはせた。




