芍薬
女官長がやってきて、美蘭が元の部屋に残してきた刺繍道具やその他手芸用品を持ち込んだ。
空き部屋に運び込んでもらうよう頼んでから食事が差し入れられた。
「夕食は陛下と一緒ということになっております」
美蘭の食事がすむと後片付けをして女官達は帰っていき美蘭は再び一人になった。
女官たちが置いて行ったものを整理し、それと追加に置いて行った書物を眺めているうちに夜も更けていく。
女官達が再びやってきて灯りをともしていく。
どうやら発火装置も美蘭の自由にしてくれる様子はないようだ。
「わざわざ来てくれなくても渡してくれれば灯りぐらい自分で点けるのに」
それが仕事だと言われれば美蘭としても言いようがないが。
王とそれと初老のなんだか偉そうな人がやってきた。
聞けば宰相だという。偉そうじゃなく実際にえらいようだ。
美蘭は後宮で教わったように跪いて出迎えた。
「お初にお目にかかります、芍薬殿」
いきなり呼び名が変わっていた。
「芍薬って」
上位妃の呼び名で呼ばれてようやく自分の状況に気が付いた。
「いいんですかそんなんで」
思わず王に突っ込んだ。
「上級妃は終身務めだからな、それと、儀式なんかに出席もあるから、あと催し物とか、それは女官長に聞いておけ」
「いや、さすがにまずいでしょ」
芍薬は正妃牡丹に次ぐ上位妃だ。
牡丹がいない場合正妃代行を行うこともある。確か牡丹は今いないはずだ。
「なんでそうなるんですか?」
「身分については問題ありません」
「大ありの間違いじゃ」
「貴女の父上は結構名門の生まれですが」
「人違いじゃないんですか」
美蘭は思わず叫ぶ。あれが名門の生まれ、ありえない。
「確か不始末をしでかして、今実家と縁を切られたと聞いておりますが、血筋自体に問題はありません」
「ああ、そうですか」
人違いの可能性が少し消えた。心底情けなくて、思わず床に両手をついてしまう。
「何をやらかしたのかは聞きたくありません」
絶対ろくでもないことに違いない。
襟首をつかまれて引き起こされる。
「それではこちらからも話がある」
宰相はそのまま帰ってしまった。美蘭は王と顔を合わせ、見つめあう。
「今後のことだ」
そう言って椅子に座るよう促す。
「これからお前は芍薬として頑張ってもらう。その場合命を狙われるだろうが、そのあたりも頑張ってもらいたい」
「ああ、そうなるよね」
たった一人の上級妃それも事実上正妃代行、普通に命を狙われる立場だ。
「それと、明日以降菫を除いた妃達は後宮を出され、適当な男たちのもとに行く、一人を除いてだがな」
「一人?」
「福寿草だ、何でも飲まされた毒薬は途中でむせてほとんど吐き出したらしいぞ、だが恐怖で気絶してしまったらしい」
「そりゃ、よかった」
しかし油断はできない、この後改めて処刑ということになりかねない。
「事情の分かった神殿で生涯幽閉だ」
「本当に良かった」
多分もう会うこともないのだろうと、美蘭は目を閉じた。
これからは一人、そう思うと、玉蘭と桂花と三人で過ごすのは楽しかったように思える。
せめて玉蘭は幸せになってくれればいいけれど、それを確認することもできないんだろう。
「では、妃よ」
美蘭は王に引き寄せられる。
「これからよろしく」




