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殺戮

残酷表現注意

「あのう、尋問とかしないんですか」

 美蘭はまだ痙攣している死体を見下ろしながら訊いた。

 血はどくどくと流れているし、うつぶせに倒れているが明らかに肌の色が生きていいない感じに変色している。

 「ああ、このことはあとに残すつもりはないからな、こういうところに隠れていたことを幸いにすべて闇から闇だ」

 王は軽く手首を振って血を振り落とす。

 後始末する人、大変そうだなと思いながら、あとをついて歩く。

 大体状況は想像がついた。

 泳がされている誰かがいたんだろうなと、その誰かをかわいそうに思いながら美蘭は歩いていた。

 それにしても裁かないということは公式に残ってはいけないことがあるということで、それはいったい何だろう。

 首をかしげるが、世の中には知らないことがあるというどこでもいつの時代でも正しい格言を思い出し、疑問は口に乗せる前に押しつぶした。

「それにしても、ここって元々何だったんだろう」

 隠し部屋にしてもなんだか広すぎるような気がする。

「もともと、ここも後宮の一部だ。というより、後宮の一部を壁で区切ってそっくり隠し部屋にしてしまったんだ」

 独り言のつもりで呟いた言葉を王が拾う。

「最初に後宮に来た時、妙だと思ったんだ。随分と狭いと、後宮にいたのは十になる前だったから最初は記憶違いかと思ったが」

 子供の頃いた場所に大人になって戻ったときこんなに小さかったろうかと思うのはよくあることだ。

 そうした記憶の錯覚かと思ったらしいが念のため調べさせたら大規模な隠しスペースを作るために後宮自体を縮小してしまっていた。

「あの、あれで狭くなっていたんですか?」

 美蘭の知る限り、今の後宮でもちょっとした御町内がすっぽり収まる広さがある。

 不意に見覚えのあるものを見つけた。

 睡蓮が血を流して倒れていた。

 顔色は青白くピクリとも動かない。すでに嗅覚は麻痺しているが衣装が真っ赤なのは血を流しすぎたせいなのだろう。

 まだ息はあるのか確かめようと手を伸ばし押しとどめる。

 息があったとしてもどのみち助けることなどできないのだ。

 睡蓮がここにいるということは桜と石竹桂花もここにいるということだろうか。

 きょろきょろと周囲を見回す。

 睡蓮の倒れている場所のすぐそばの扉、そこが薄く開いている。

 もしかしてその扉の向こうにいて、こちらをうかがっている?

 美蘭は組紐を手に取った。

 鞭代わりに打つか、それとも体の一部を引っかけるか。

 使い慣れた武器だ。それを油断なく構える。

 扉を開くとそのまま扉の陰に隠れる。そして再び扉を押し閉じた。

 とっさに飛び出そうとしたところを扉に強打され倒れる音がした。

「いました」

「お前、ひどいことをするよな」

 なんだかあきれたような顔で王は美蘭を見た。

 扉の向こうでは、脳震盪を起こした桜と石竹がいた。

「桂花はどこ?」

 小さな殺風景な部屋だ、隠れるところは何もない。そしてどこかに抜ける道もないだろう。あったならさっさと二人とも逃げているはず。

「さっさと始末しろ」

 背後から駆け付けたらしい部下にそう王が命じた。

 気絶したまま死ねるなら、そのほうが二人とも幸せかもしれない。

 美蘭は背後から聞こえる嫌な音にそっと肩を震わせた。

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