朱に染まる
残酷描写注意
わらわらと集まってくる連中を王は無造作に切り捨てた。
王の歩いた後は赤黒いもので汚れている。
血だまりをよけながら美蘭は死体に目もくれず歩く。
いまさら死体を見て泣き叫ぶような可愛げなど失って久しい。
この壁の向こうは後宮で、若い娘たちがのんべんだらりと生きている空間で。その横でこんな修羅場があるなんて想像もしていないだろう。
王の背中も飛び散った血が汚していた。今は背中しか見えないが正面から見ればさらにべったりと血で汚れているだろう。
美蘭は王の剣が届かず、なおかつ離れない位置を苦労して確保していた。
王は大股にすたすた歩き美蘭の歩幅など考えてくれない。
そばにいる美蘭を狙うものもいたが、危ういところで身をかわし、かわしざまに手に盛った組紐を首に引っ掛けて絞め落とした。
「つくづく、妙な女がいたというか、なんでこんなところに紛れてたんだお前」
体重をかけて首に引っ掛けた紐を引いたので、少ししゃがんだ姿勢になる。その姿勢から勢いよく立ち上がり、相手が完全に意識を失っているのを蹴飛ばして確認した。
「知ってますか、天暁って物騒なんです、物騒だったんです、戦えない人間から死んでいきました」
紐を再び手に戻すと、歩き始めた王の後をついて歩く。
殺戮を行っているのは王だけではないことに美蘭は気づく。
行き先にも死体が転がっていた。
「桂花はまだ生きているかな」
いま生きていてもどうせもうすぐ死ぬ。それはわかっていても少しだけ安否が気になった。
その気持ちを必死に振り払う。かつて武術を教えてくれた老兵士は言った。
敵と相対したときは慈悲の心を捨てろ、敵と認定したら一切憐れむなと。
もうすべては美蘭の手を離れた。
最終的に美蘭が原因ですべてが露見したような気もするが、とっくに怪しまれて調べられていたのだ、結局は時間の問題だったような気もする。
もともとずさんな計画だったんだろう。
声にならない悲鳴を桂花は聞いた。
桜は横たわった死体に言葉を失う。
肝心な人質は逃げ出す。そして今的に攻め込まれている。いくら世間知らずのお嬢様上がりだとしても今の状況が絶望的だということはわかる。
いや、本当に自分たちはうまくやっていたのだろうか。
捕らえたはずの人質はあまりにも手際よく脱出した。
そして安全な場所だったはずのここで仲間と思っていた人たちが殺戮されていく。
自分たちは最初から踊らされていただけではないのか。
そう思えば笑うしかない。
最初から無理で、実現不可能なことだとわかっていた。最初からこうなることはわかっていた。だけど止まれなかったのだ。
乾いた笑いがこぼれた。
血が流れている。真っ赤な血が。
かつて見た朱に染まった死体。
その記憶から逃れられないまま進んできた。
よろよろとよろけながら睡蓮が戻ってきた。
足に刃物が刺さっている。なんとか仲間のもとに還ろうとしたのだろう。
出血でもともと白かった顔は白を通り越して青くなっている。
倒れた睡蓮を無表情に見降ろす。
じきに自分もそうなる。
それだけはわかっていた。




