隠し通路の攻防戦
美蘭は周囲をうかがいながら進んでいた。
幼い頃本職の軍人に戦闘のことを学んでいた。それも世間が物騒なので、できるだけ安上がりに身を守るため、退職軍人に戦闘指南を頼み込んだのだ。
費用は少額ずつカンパだったが、集まった人数が半端じゃなかったのでそれなりの金額になったがとにかく人数が人数なのでそれに見合う仕事量だったかはわからない。
美蘭は誰よりも熱心にその教えを受けていた。父親があてにならないので、弟を守れるのは自分だけと必死だった。
手持ちの物をなんでも武器にする方法は念入りに叩き込まれた。
そして何より厳重に叩き込まれたことは、ためらうなということだった。
そして美蘭は少なくとも同年代の女子の中では屈指のためらわない少女だった。
もしもう少し体格がよかったら軍部に紹介してやれるのにと残念がられるくらい情け容赦がなかった。
そういうわけなので、美蘭が敵と遭遇した時にはすぐに臨戦態勢を取れた。
相手は地味な服装、、後宮に来た時に見たあまり偉くない官吏が着ていそうなものを着こみ極力目立たないようにしているらしい。
刃物で切りかかってきたので紐を巻いた手で捌く。
刃物で切れないのかという心配もない。念のため、美蘭は芯に金糸銀糸を使っていたのだ。
金や銀は金属の中ではもろい部類に入るが、それでも腐っても金属、気を付けてさえいれば刃物を防ぐこともできた。
よもや刃物が通じないと思っていなかったのだろう、明らかに狼狽した相手、そして美蘭はしばらく相手を戦闘不能にすればいいと判断した。
殺す必要はない、しばらくの間動けないでいてくれれば美蘭は安全な後宮内に戻れるのだから。
そういうわけで美蘭はためらいなく相手の懐にもぐりこみ掌底で顎を狙いつつ股間を蹴り上げた。
そうすれば、相手が男である以上しばらくはまともに歩くこともできないのだ。
受け身も取れずに倒れ伏し身体を丸めて痙攣している相手をそのまま放置して、美蘭は覚えておいた隠し扉の場所まで急ぐ。
美蘭はためらわない少女だった。何の躊躇もなく慈悲のかけらもなく急所を蹴り上げるその様は見ている男達の心を恐怖で凍らせた。
美蘭の後ろ姿を同じように冷や汗をかきながら眺めている物があろうとは全く考えていなかった。
桂花は先程様子を見にやった石竹がいつまでたっても帰らないので様子を見に行った。その時は既に虜の姿はなく、石竹が虜の衣装を使って拘束されていた。
ぎっちりと硬く結ばれた帯を何とかほどこうとするがどうしてもほどくことができない、
「ごめん石竹、これは刃物がいるわ」
とりあえずさるぐつわだけ取ってそういうと仲間に助けを呼ぼうと飛び出した。
「どうした」
血相を変えた桂花に気付きほかの仲間も駆け寄ってくる。
それは桂花を唆した男。桂花を後宮に呼ぶ際、耳に毒を注ぎ込んだその男は桂花が勿忘草が逃げた。そう伝えると苦虫を噛み潰した。
「縛っておかなかったのか」
「縛ってあったの」
なぜあの拘束が解けたのかわからない。
男は配下に探させた。
今まで王宮を遠く離れていた王にここが見つかるわけがない。さっさと人質を取り戻さないと。
「ああ、こんなところにもなあ」
やれやれと王は隠し通路の前に立っていた。
あの兄の代で、後宮の作りはかなりややこしくいらない機能が付加されている。
これを自分が直すとなれば。
かかる予算に頭痛がした。




