表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/153

暴力

 花瓶で殴られた。たっぷりと水の入った季節の花を生けた花瓶で。

 殴られた衝撃で水がこぼれ、髷が崩れて化粧もはげた。

 長い髪が水気を含み襟元からズクズクに濡れていく。

 とっさに首を動かして衝撃を最小限に抑えたが、そうでなければ死んでいた。

「気絶したの?」

 いや、気絶させるために花瓶で殴るってやりすぎだから、普通死ぬ。

 死んだふりをしながら美蘭は横目で三人の様子をうかがう。

 福寿草は瓶の中身を飲み干した後、何度もむせ返っていたが、そのうち力なく崩れ落ちた。

 それを見届けてからの一撃だ。

「じゃあ、つれていきましょう」

 定期的に女官が見回りをしている。こんな状況、ずぶ濡れの頭をした縛られた女を連れていればすぐに通報されるだろう。

 そんなことも考えられないほど馬鹿なのか、それとも別の理由があるのか。

 薄目を開けて周囲をうかがう。

 最終的な結論として後宮の中は隠し通路がしこたまあるという事実をつかんだ。

 ここで生活してしばらく経つけれど、隠し通路のことは全く気が付かなかった。もしかしたら菫あたりが使っているのかもしれないが。

 以前見た隠し扉の様に壁が扉の様に開いた。

 どうやら壁についた飾りが目印らしい。

 縛り上げた状態でそこに放り込まれる。

「運が悪かったわね、私たち貴女をつけていたのよ」

 睡蓮がそう言って美蘭の髪をつかんだ。

「女官たちが面白い話をしていたの、鶏頭はただの隠れ蓑、本当の寵姫は別にいるっていう話を」

 美蘭の背筋に冷たいものが走る。濡れた髪からだけでは無く冷や汗を。

「だからお願い、私達の力になってね、私達の家族を無残に奪った王に復讐するために」

 うわあ、と美蘭は顔に出さずに絶望した。

 実は薄々そんなことではないかと思っていたのだ。

 あの勘違いをどう修正していいのかわからなかった。修正できない理由があった、だけれども、どうして修正しなかったと自分を責めた。

 死んだふりをしながら、この先どうしようかと悩む。

 下手すれば遺体を送り付けるつもりかもしれない。

 ためらいなく花瓶を振り下ろした石竹の姿が目に浮かぶ。

 人を殺すぐらい何とも思ってないなあとため息をつく。

 王は自分たちの家族を弾圧した悪い奴だから、なぜ自分たちの家族が弾圧されたのかは考えていない。

 街の惨状を見ていた美蘭にとってはそりゃそうなるだろうねえとしか言えない。

 一度も街を、天暁を見たことがないんだなあと美蘭は思った。

 美蘭がもっと幼い頃は街はもっとましだった、それからどんどん悪くなり、そして今の王が即位し再びましになった。

 だから悪くした人間が責任を取らされるのは当然だと思っていた。

 だが、天暁がどんなにひどい状態になったのか知らないのなら、理不尽に家族を失うことになったと恨むこともあるのだろうか。

 今一つ納得できないが。

 睡蓮と石竹、桜がいなくなった後桂花だけが残った。

「目を覚ましているんでしょう」

 桂花が言う。

「最初から気絶してないよ」

 美蘭は目を開けて、桂花を見た。

「はっきり言って、貴女達馬鹿よ、そして、馬鹿にここまで考えることができるわけがない。ねえ、誰に唆されたの」

 確実にいるはずだ。三人を唆した、もしかしたら三人だけとは限らないが、誰かが、おそらくお膳立てを整えたのも。

「馬鹿よ、親に養われて、ほとんどまともに外に出たことがないんでしょう、そんな人に何ができるの」

「それでも、退くわけにはいかない、このままだと命がないくらいわかってる、だけどあんな理不尽を許すわけにはいかない」

「何があったのよ」

 ただ家が没落したわけではあるまい。

「思い出したくないわ、それでも瞼に焼き付いて離れないの、ごめんね、利用させてもらう」

 桂花はそう言って、袖で美蘭の顔をぬぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ