福寿草
まずはやるべきことは御用聞きだと最近注文のないところに行ってみる。
何件か回った後、最後にやってきたのが福寿草のところだった。
「福寿草さん御用聞きに参りました」
注文書を片手に扉の前で叫んだ。
扉の向こうで小さな悲鳴が聞こえた。
「福寿草さん、どうしました?」
そう言って扉を開ける。しかし、部屋には福寿草だけがいて、部屋の隅にうずくまり座り込んで泣いていた。
「あの、どうしました?」
とにかく起き上がらせようと手を差し伸べる。
「ひいっ」
小さく悲鳴を上げて、福寿草は美蘭の手を振り払った。
「え?」
「貴女はあの人の仲間じゃないの?」
恐る恐る福寿草は美蘭の顔を上目遣いに見ながら訪ねる。
「仲間って何のことです」
思わないところから手掛かりが来たと、内心興奮気味だったが、それを押さえできる限り冷静に落ち着いた様子に見えるよう装う努力をした。
「私、怖かったから、だから」
何度もためらうように福寿草は何か言いそうになりながら口ごもる。
多少イラっとしたがここは忍耐だとできるだけ穏やかな笑みを浮かべて先を促す。
「私悪くないの、あの人をあんな目に合わせたのだって、怖かったから」
あんな目という言葉に美蘭は引っかかる。
最近ひどい目にあった人間は二人だ。鶏頭と桂花。
「いったい何をしたんですか?」
「頭を殴って、でもあの人といたら私」
桂花に決定、しかし、福寿草は被害者である桂花をむしろ恐れているようだ。
「本当に仲間じゃないの、ずっと一緒にいたでしょう」
美蘭と桂花と玉蘭のミソッカスが集まっていた。でもそれ以上の関係ではないと思っていた。
「仲間って何のことです?」
「陛下に復讐しようとしているの」
いきなり核心が来たと、美蘭の心臓は鼓動を速めた。
「復讐?」
桂花にどんな事情があったかは一度も聞いていない。美蘭も話していない。だから何らかの王を恨む事情があったとしても、それはそれでありそうなことだと思う。
福寿草は小刻みに震えている。
「どうしよう、このままでは王に殺される。でもあんな恐ろしいことできない」
がりがりと爪を噛む福寿草を何とかなだめようと、爪を噛む手を止めようとして気づいた。
福寿草の目の焦点が合っていない。
先ほど話したような内容も、商機なら話す可能性は低い。だいぶ前から多少錯乱していたらしい。
「落ち着きなさい、大丈夫だから」
今は何も起こっていない。実行に移す前に止めたら、ぎりぎり命だけは助かるかもしれない。
もしかしたら、たぶん。今一確信が持てないでいたが、女官長あたりに福寿草を預かってもらおうと腰を浮かせる。
「あら、聞いてしまったの」
涼やかな声がした。
扉が開き人が入ってくる。
睡蓮と桜と石竹が美蘭を取り囲んだ。そして桂花も。
「どうして……」
石竹と桜が美蘭に体当たりをしてくる。二人分の体重を支え切れずに倒れた美蘭の両手を桂花と睡蓮が縛り上げる。
そして桂花は福寿草に小瓶を渡した。
「これを飲みなさい、そうすれば許してあげる」
瓶の中身が何か察した美蘭はとびかかって止めようとしたが、石竹と桜が渾身の力で押しとどめてきた。
福寿草はのろのろと瓶を受け取る。
そして一息に飲み干した。




