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雑談に寄せて

美蘭は一心不乱に刺繍をやっていた。

 習いに来ていた杏も口を出せない速さの運針に呆然と座り込んでいる。

 茶器一式を持ち込んで見学に来ていた玉蘭はもの言いたげに覗き込んでいる。

「どうしたんでしょうねえ」

 杏はそう言いながら自分の刺繍道具をいじる。

 他人の部屋に持ち込む前提だからかそれは随分と小さい刺繍枠だった。

 美蘭のちょっとした机ほどのものではない。

 色とりどりの糸を通した針が何本も布に突き刺さっている。

「ああいうやり方は初めて見ましたけど」

「効率重視だな」

 杏はいちいち針を糸に通して色を変えている。

 そのため遅々として進まない。

「そこ、うるさい」

 美蘭が低い声で言う。目が座っている。

「おい、習いに来たんだろう」

 最近はすっかり砕けて、言葉遣いも雑になった玉蘭がお茶を飲みつつ言う。

「それはそうと、そのお茶どこから持ってきたの」

 美蘭が訊くと玉蘭は家から持ってきたと答えた。

「お茶ね」

 美蘭の家ではお茶といえば葉っぱではなく葉っぱの下の茎だった。そんなものは当然後宮にはおいていない。

 そのため自分では入れられないので常に女官に入れてもらうか、面倒なので白湯を飲んでいる。

「そういえばいつもつるんでいる菫はどうしたの」

「あの、今姿が見えないんです、どこにいるんでしょう」

 普通は自室でなければ集会場になっている広間くらいしか行くところがない。菫の正体を知っている美蘭はおそらく後宮の外に出ているなとあたりをつける。

 仕事だとわかっているが少しだけ羨望を覚えた。

「どこに行っているんでしょうねえ、よくいなくなるんですよ、庭園にも出ていけないはずなんですけど」

「それはもったいないわね、だってせっかく選定した庭園でしょう、格子窓の向こうからしか覗けないなんて持ち腐れというものだわ」

 多分、庭を通る秘密の通路の存在が問題なんだろうなと推測する。

 庭から部屋からでは開かない扉が開くなんて考えてみれば物騒極まりない、庭園の出入りが制限されているのはそのせいかもしれない。

「なら仕方ないか」

 そう呟いたが、周りからは意味不明な言葉だったらしい。怪訝そうな顔をして美蘭を見ている。

「そういえば知らないの?」

「何を?」

「この部屋、秘密の通路や覗き穴があるらしいけど」

 それは爆弾だったらしい、玉蘭と杏が目をむいた。

「本当に知らなかったの? 桂花に聞いたんだけど」

「知らない、というかどうして桂花はそんなことを知っていた?」

 玉蘭が身を乗り出してきた。

「後宮から出た人に聞いたって」

 そして依然聞いた不吉な言葉。菫は言った。前王の時代の妃はすべて粛清されたと。

「まさか、あいつやばいことを知っていたんじゃないか?」

 冷や汗を流しながら玉蘭は呟く。

 やばいこと、の言葉に美蘭は唇をかんだ。

 後宮の裏で行われている何か、それにつながっているのはもしかしたら一番身近だった桂花ではないかと。己の迂闊さを呪った。

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