報告
菫は王の前に跪いた。
「報告いたします」
顔は上げない、王の許しなく顔をあげられるわけがない。
「玉蘭殿が妙な気がいたしました。あの妃は極めて学識が高いにもかかわらず、舞など通常の令嬢が受けるべき素養がなさすぎるのです。ですが、あの妃の場合親にやらされたけれど身につかなかった可能性があるかと」
舞の素養のない者同士、練習を重ねている。
勿忘草の妃は最初こそ玉蘭の妃と同様基礎から始めていたが、今は初級を終え、中級の短い曲なら一極舞いきれるほどの実力を身に着けているのだが、玉蘭の妃は一向に初級から前に進まない。
相当資質がないのだろう。
「鶏頭殿は既に寵姫気取りで、少々女官たちに横柄な物言いなど弊害が出始めております」
鶏頭の妃は一人だけ王の相手を務めていることを七位かけ、いろいろと問題行動を起こし始めている。
「あれは放っておけ、話してみても底の浅い女だ」
まるで他人事のような言葉に菫は少し下げた頭を深くする。
「いずれ後宮を出されるのですか」
「あれに手を付けたのは、あれだけが傷物だったからだ、他は傷がつく前のものばかりだった」
「それは不手際ですね」
王の後宮にほかの男と経験した女が入ってくるなどありえない。
「家庭内のことだったのかもしれんがな、下げ渡すのに傷をつけるわけにはいかないだろう」
そう言って王は手元の書付を出す。
「勿忘草から受け取った注文書の写しだ。少し気になるところがある福寿草と葵だ」
その二人は菫の記憶からも薄い、外れを集めたと言われる三人組よりもだ。
「玉蘭ですら組紐の注文があったのだが、この二人は全く注文していない」
勿忘草の商売は、それでも妃達の気晴らしの側面もある、そのため後宮の上は何となく止めることもできなくなっている。
特に王に媚を売りたいと思っていないものも一度は注文しているはずなのだ。
菫はあえて鶏頭と睡蓮と百合の間をおろおろしている役割をしている。そうすることで情報を得やすくしているつもりだった。
あちらこちらで何事か聞きまわってもそれを怪しむ存在はいない。
巻き添えを食わせた杏には気の毒だが。
実際自分の立ち位置はさっさと決めたほうが楽なことは確かだ。
杏子はいつもおろおろとして寄る辺ない子供のような顔をして菫の後ろについている。
「勿忘草殿はいつも通りですね」
いつもカチャカチャ動いている女だ。
授業は基本的にまじめ、学ぶことは嫌いではないようだ。舞はだいぶ様になってきたし、行基作法は元々身についていたのと間違ったところを直す程度。
そして商売は極めて熱心だ。
本気でこのまま住み込み職人としてい着くかもしれない。
とにかく止まっているところを見たことがない。
「そうなのか、一度顔を見に行くか」
まあ密偵としては今回一度限りと思われる。目立ちすぎるのだ。
目立つ立場ゆえに集まる情報もあるが、人に記憶に残りやすく特徴が大きいのは密偵として致命的だ。
「明日、後宮に向かう」
「わかりました」
睡眠薬入りの香炉をまた用意しなければならない。




