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洗濯の選択

 失敗したら弁償というプレッシャーと戦いながら、真影は最初の公休日にたどり着いた。

 公休日は十日に一度なのであるが、見習い期間中は基本的に外出禁止だ。

 そんなわけで、日常にたまったものを片付けることにした。

 それは洗濯。

 小さめの下着類などはこまめに洗っているのだが、大物を洗うには少々時間が足りない。そのためたまった洗濯物を洗ってしまうことにした。

 一抱えほどの洗濯物を手に部屋を出ようとする。

「真影、どこに行くの」

 寝台で何となくだらけていた圭樹が訊いた。ほかの三人も思い思いの格好でだらけている。

「どこって、洗濯」

「え?」

「え?」

 心底疑問に思っている「え」に、思わず真影もそれで返してしまった。

「着替え、無くなるだろう」

「無くならないようにたくさん持たされたけど」

 あの大荷物の謎がいま解けた。

 その言葉に、忘れていたけれど、真影以外は家に使用人のいるお坊ちゃんばかりだったということ思い出す。

「まさか、洗濯という言葉を知らないなんて言わないよな」

 頼む、言わないでくれと祈りもむなしく、知らないと答えられた。

 手から汚れ物を落とし、両手を床についた。

「まさか、金武、お前はわかっているよな」

 金武は無言で明後日の方向を向いた。

 漢途が聞いたことがあると答えてきた。

 今まで学問所以外の場所で顔を合わせたことが極端に少なかったため、生活にここまで落差があるとは思っていなかった。

「とにかく僕は洗濯に行ってくるよ」

 後日異臭が漂って来たら説得して洗濯させよう。そう決意して水場に向かう。


 水場は随分と込んでいた。

 見渡せば自分の父親より若い程度から、二十代半ばほどがほとんどで少年は真影一人だ。

「君、一人?」

 そう声をかけてきたのは、三十代前半ほどの年頃の男だった。

 妙にのっぺりとした顔立ちで、特徴が薄い。

 特徴のなさでは圭樹といい勝負だなと真影は思った。

 よく存在を忘れられるほど圭樹は印象が薄い。ついでに気配も薄い。

「ほかの人は?」

 常に四人で行動していたので、単独行動が珍しかったらしい。

「いや、ほかの子たちは洗濯はしないのか」

「ああ、異臭が漂って来たら説得するつもりです」

 すでにあきらめの境地にいる真影に、男は乾いた声で笑う。

「君は普通の家の子なんだ」

 どうやら真影以外の少年たちは、そこそこいい家の子供ばかりだったらしい。

 あれを普通といっていいんだろうか。そんなことを思いながら真影は頷いた。

「私は、李柴源、まあ、元は商人だったんだがね」

「そうですか」

 商売をやりながら、受験勉強。もっともここにいる人たちの過半数が沿うだろうけれど。

 本年度の受験で、いいところの坊ちゃん方は過半数が落ちた。

 そのことをいい気味だと笑っているのをどこかで聞いた覚えもある。

 空いた場所に、洗濯物を置いて、水を汲みに行く。

 皆、ずいぶんと手慣れた様子なので、ほとんどが真影と似たり寄ったりの経済状況の人間ばかりなのだろう。

 一度洗濯物を全体に濡らし、それに灰をまぶす。

 よくなじませてからごしごしと真影は洗い始めた。

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