仕事
その日王は後宮の女官長から苦情を受ける羽目になった。
「後宮で商売をしている妃がいる?」
意味が分からない。
「妃は現金を持っていないだろう、それで商売ができるのか?」
「妃にはその月ごとの予算が組まれております。その予算からその妃の取り分にしてほしいと申し込まれました」
すでに五人ほどの妃がその要請を行っているらしい。
「金額はいかほどだ? いったい何を商っているんだ?」
「手製の手芸品です。予算はさほど、手数料ほどでしょうか」
思ったよりも少額な商いのようだ、それならばわざわざ辞めさせるまでもない。
「ならば放っておけ、こちらに送られてきた請求書を見る限り、ありったけ使える限り使おうというものが多数いるようだ、いっそ節約になる」
予算ぎりぎりまで、高額な装身具に金をつぎ込んでいる妃がちらほらといる。これがこのまま進めばさらに頭の痛いことになる。
「それで、その妃の名は?」
一番に聞いておくべきことだったかもしれないことを聞く。
「勿忘草殿です」
くすっと笑いがこぼれた。
どうやらあの娘は仕事を始めたようだ。
「さて、誰だったかな、目に余るようならまた連絡しろ、今は放置しておくがいい」
それだけ言って王は女官長を追い返した。
そういえばこいつもいたよな。
美蘭は舞のおさらいを受けながら隣を見た。
玉蘭、そう呼ばれている妃の一人、彼女は床に倒れて呻いている。
足を組んだ状態で膝を曲げて姿勢を低くする。その姿勢を取ろうとした途端倒れたのだ。
美蘭はその姿勢で静止している。
幼い頃弟を常に背負って生活していた美蘭の足腰は尋常な鍛えられ方ではない。バランスを取りながら微動だにしない。
美蘭が玉蘭の存在を忘れていたのはあまりにできない女だからだ。
美蘭と真逆な意味でなんでいるんだろうと言われているのが玉蘭だ。
容姿はおそらく妃たち全員の中で一番劣っている。
体形は美蘭と似たり寄ったりのやせぎす。座学はともかく舞や行儀作法では失敗ばかりという体たらく。
美蘭は姿勢を元に戻し、玉蘭を支えてやる。
「大丈夫、足でもくじいた?」
肩を貸してやるとどうやら本当にくじいていた。
「あの」
舞の教官のほうをうかがうと、部屋に連れて行けと顎で示された。
「一応、妃であの人達より身分が上のはずなんだけどな?」
そんなことを呟きながら、玉蘭の部屋に送っていく。
美蘭より玉蘭のほうが少々背が高いので、運ぶのは少し手間がかかったがなんとか運べた。
美蘭の部屋にはほかの妃にはないものが置いてあった。
書物だ。それに何巻かの巻子も置かれている。
書物は高い。弟のため何冊かかったが、その値段は常に美蘭を涙させた。
「ありがとう、勿忘草」
そう言って玉蘭は寝台に座る。
「なんでこんなものを集めているの」
不思議そうに美蘭は書物を見た。
「女は、こんな時でもなきゃ勉強できないからね、妃にふさわしい教養を得るためといえばいくらでも用意してもらえる」
弟は学問所に通っている、そんな中知ったことは、世の中には勉強が好きで好きでたまらない人種が存在するということだ。
上級管理試験より、ただ学問がしたいという少年たちも何人かいた。
玉蘭もその一人らしい。
女官が薬と包帯を持ってやってきて、美蘭は追い出された。
本日の収穫は玉蘭は確実に王の寵愛を要らない人ということ。
一歩前進とホクホクしていた。
玉蘭 白木蓮です。




