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王の渡り

 美蘭の部屋で、裁縫道具が片付けられていく。

 そのうえ、その箱は鍵付きの戸棚にしまわれそのカギを女官たちが持って行った。

「明朝、陛下がお帰りになってから開けて差し上げます」

 それだけ言うと部屋の中に美蘭を残し去っていく。

 別に美蘭が今日王の相手をすると決まったわけでもないのに、危険物を手の届かない場所に片づけるとか大げさすぎやしないだろうか。

 やることが無くなってしまった。

 毎日の楽しみの風呂に入る。

 風呂に毎日入れるということだけが美蘭の満喫している贅沢だった。

 風呂の外では女官たちが待ち構えていて、強制的に磨きをかけられる。

 どう考えても小柄で童顔な美蘭より大人っぽい他の女のほうが選ばれる確率は高いと思われたが。


 とにかくジャラジャラとつけられた装身具が妙に重い。

 桂花はどう思っているのか。そう横目で見たが、ただ目を伏せてうつむいている。

「ちょっと、私のそばについていてよ」

 桂花と同じくなんとなく話すようになった百合が寄ってきた。

「あんたちっちゃいから目立たないし、他の目立つ女のそばなんか寄れないわよ」

 目が逝っちゃってた。

「本気だね」

「当り前よ、もう終わりかと思ってたところにやってきた絶好の機会よ、これを逃せるわけがないわ」

 百合は以前妓女に売られかけたと言っていた。それが王の側室になりうまく世継ぎを産んで上級妃に上り詰めてやると常々言っていた。

 百合が美蘭とだけ話すのは、美蘭が側室という身分にも王にもさして興味を示さないからだ。

 成り上がるつもり満々な百合に美蘭は白けた気分でそこに並んでいた。

 後宮の一番大きな扉は今まで開いたことがない。

 美蘭が連れてこられた扉は中に入ると同時に厳重に鍵がかけられた。鍵は内向きについえていた。

 しかしその扉は外側に鍵がついている。

 後宮の中からでは決して開けられない扉だ。

 その扉が開いた。

 背の高い、すらりとした体躯の男がそこに立っていた。

 そしてその背後に壮年の年頃の男がいる。

 先先代の末子、ということを考えればたぶん若いほうが王なのだろう。

 着ている物はどちらも高そうだということぐらいしか美蘭にはわからない。

 そんなことを伏せた顔でなるだけ上目遣いにして観察する。

 膝をつき袖を顔に翳した姿勢でそのまま静止している。

 王はしばらく無言で膝をついた女たちを見ていた。

 姿勢を静止させ続けるのは非常に苦痛を伴う。翳した腕がプルプルしだした。

「何のつもりだ」

 冷たい声がした。

 王は冷ややかな目で女たちを見ていた。

「王のために集めた女達です、後宮にただ一人の妃も居ないなど」

「要らんことをするな」

 王はいかにも迷惑という口調でいかに女たちが不要であるか言い切った。

 横目で百合を見ると、なんだか涙目だ。

 他の女たちも同様だ。王にすがるしか道はないような女を集めているらしい。

 なぜその中に美蘭を入れたのかは謎だが。

 美蘭はすっくと立ちあがった。

「すいません、もう帰っていいですか」

 はっきりと言いたいことを言う。

 いきなりの発言に王は切れ長な目をまん丸に開けている。

「陛下のために集められたと言われましたが、陛下はいらないとおっしゃる。なら帰ってもいいですよね」

 そう言ってさっさと自室に戻ろうとする。

 こんなジャラジャラしたものをはずして、着替えてうちに戻ろう。

 だって王はいらないって言ったんだもの。

 そのままくるりと背を向けた美蘭を女官たちが押しとどめる。

「その方は部屋に閉じ込めておきなさい」

 女官長がそう命じた。

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