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秘密の部屋

 美蘭は桂花の部屋に遊びに行った。

 一人で刺繍しているのも飽きたのだ。桂花の部屋は美蘭のすぐ隣だ。

 美蘭の部屋もだが、どの部屋も立派な調度だ。床は組木で幾何学模様を作ってある。

 壁はうっすらと黄色を聞かせた色なのは部屋の花と合わせてあるのだろうか。美蘭の部屋は薄青い。

 そして部屋のほとんどを占めるのが、寝台だ。それほど狭い部屋とも思えないのに、その寝台は妙な存在感を示している。

 寝台の脇にある卓と椅子に美蘭と桂花はいた。

 美蘭はこの部屋の作りは何かに似ていると思った。そして思い出す。下級娼婦の部屋の作りだ。

 それも当然だ。ここは王専用の娼館なのだから。

 美蘭は一時期刺繍工房に努めていた。そこである程度技術を得てからやめ、個人営業を始めたのだが、客はそうそうつかない。なんとかついたのが下級娼婦たちだった。

 下級娼婦は金がないが、着ている物をみすぼらしくするわけにはいかない。そのため格安の刺繍職人の美蘭に目を付けたのだ。

 シミやかぎ裂きの上に刺繍でごまかしてもらえば新調するより安くつく。

 美蘭としても、同じだけ仕事をしても雇い主に収める分が浮くのでそれだけ儲かる。

 そのため何度かそういう部屋に出入りしたのだ。

 そっちの商売に誘われたが、それは頑として断った、わずかでもそっち方面に行く勇気はなかったからだ。

 それがこういう事態に陥るとは、そんな感慨で部屋を見回す。

 そしてすぐに妙なことに気が付いた。廊下の扉の位置から逆算した部屋の面積より、少しだけだが部屋が狭いのだ。

 壁を凝視している美蘭に桂花は笑って答えた。

「間に小さな部屋があるのよ、入口は隠されているけどね」

「物置か何か?」

「違うわよ、王がこの部屋にいらした時、護衛の女衛視が隣の隠し部屋に入り、王が出ていくまでこの部屋を見張るの」

 この部屋で王がナニをしに来るかは言うまでもない。そしてその一部始終を誰かが見ているということは。

「その部屋からだけ開く扉があるの、こちらからは開けられないけどね、何かあったら飛び込んでくるらしいよ」

 桂花の言葉が耳をすり抜けていく。

 今の待遇、あの娼婦たちより下だわ。

 沈鬱な表情の美蘭に桂花は笑って言った。

「それで、その肩掛けくれるの?」

 美蘭が手土産代わりに持参した刺繍を施した肩掛けを凝視していた。


 翌日、行儀作法の授業が終わったころ、王が夜やってくるという知らせが届いた。

 美蘭は持っていた団扇を取り落としそうになった。

 しかしだ、今日美蘭が王の相手をすることになるとは限らない、女は十人以上いるのだ。

 しかも美蘭は実年齢よりもはるかに幼げに見える容姿だ。

 隅っこでやり過ごそう。そう決意した。

 このまま後宮にいるより、さっさと妾としてどっかのボンボンに下げ渡されたほうがいい。覗かれるのは絶対いやだ。

 美蘭は決意も新たに団扇を握り締めた。

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