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後宮の金

作り付けの戸棚を見る。そこには絹の着物が十着ほど収められている。そのわきに麻と綿で出来た擦り切れた美蘭自身の着物が置かれている。

 美蘭の荷物はもう一着の着物と、肌着だけだ。

 おそらく出番はないだろう。

 朝起きれば二人の女官が来て、美蘭に着物を着つけていく。ほかの女達にも同じようにしていくらしい。

 他の女達大体十人ぐらいだろうか。顔と名前が一致していないのでそれくらいと勘定する。

 妓女より苦労は少ないだろう。十人ほどの女で一人の男を相手するならせいぜい月に一度ぐらいだろう。

 以前の後宮では一人の王に上級下級合わせて数十人の妃達がいて、その妃達が順番を待っていたらしい。

 下手すれば数年に一度相手をするだけの女がいてもおかしくない。そんな女も養うために多大な経費が使われていたのだ。

「そりゃ、国も傾くわ」

 それだけが原因ではないが、美蘭とすれば言語道断の無駄だ。

 

 朝の授業。礼儀作法と舞の練習をして、簡単な書物を読む。

 女たちは全員読み書きができるらしい。

 美蘭も一応下級とはいえ役人の娘だったので、初級の学問所に通っていた。そこで最低限の読み書きを習った。

 しかし、女子で読み書きができる者はこの国では少数派だろう。

 普通に会話をするようになったのは三人ほどだ。

 他の女は警戒するようにほかの女と会話を拒みめったに目を合わせようともしない。

「暇だ」

 美蘭はため息をつく。

「女官長に談判すれば、なにがしかは与えてもらえるはずよ、書物でも楽器でも」

 話すようになった女が教えてくれた。

 桂花と呼ばれている。この場所での呼び名で、本名ではない。

 女官長は最初に話をした壮年の女の身分だった。

「でも私、経費を削られているし、それ対応してもらえるの?」

 美蘭は自分の経費を弟への仕送りに頼んでいる。それがどれくらいなのか、明細を見せてもらっていないので判断がつかないのだ。

「聞いてみれば、それと、確認したほうがいいんじゃない?」

 言われて気が付く、そんな大事なことを確認しなかったなんて。

「行ってくる。どこに行けば会えるの」

「適当な女官に言えば、呼び出してもらえるのよ」

 そういう時はこの後宮の上の身分だと感じる。普段はそんな感じは全くしないが。

 美蘭が通りすがりの女官に女官長に用事だと言えば数刻で、女官長は勿忘草の部屋にやってきた。

 美蘭が明細を要求するとすでに予想していたのかその場で見せてくれた。

「それと、針仕事をする道具がほしい。刺繍の道具があれば」

 美蘭は暇つぶしの道具を要求する。

 美蘭は非生産的なことが嫌いだった。

 刺繍なら内職でよくやっていた。これなら、普段家で過ごしていた通りに過ごせる。

「それなら削減した経費内で収まります。布と糸は適宜に要求してください」

 それだけ言うと女官長は去っていった。

 渡された明細を見て美蘭は苦笑する。

 美蘭の経費は半分になっていた。しかし、ひと月分の全額が、美蘭の父親の年収なのだ。美蘭はこの額で全く困らない。

 つくづく王宮とは桁が違う場所だ。

 そして十日が過ぎても、王は誰のもとにも通わないということが分かった。

 いったい何のためにいるんだろう。美蘭は真剣に悩んだ。


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