話が違う
着いてすぐ風呂に入れと言われた。
美蘭は生まれて初めて風呂というものに入る。
春から秋にかけては水を浴びて身体を清めていた。冬は十日に一度の割合で、温めたお湯を桶二杯分使って身体を清めていた。
風呂に入っている間に、何やら違法なものを持ち込んでいないか、着物と荷物を改めると言われた。
否やはない、どのみち持ち込んでいないし、大したものも入っていないし高額の報酬のためならそれくらいのことは我慢できると思った。
裸になって、薄布一枚羽織り風呂に入れば、同じように薄布一枚で湯船につかっている女たちがいた。
いずれも同年代ぐらいだろうか。
ちょっとした小部屋ぐらいの湯船にたっぷりとお湯が満たされている。
これだけ沸かすのにどれほどの薪が必要なんだろう。
他の女たちが入っているので熱すぎはしないだろうが、そっと指先でお湯の温度を測る。
思ったよりはぬるいが十分温かいお湯だ。
うきうきと湯船につかる。
さすが王宮だ、高々使用人にもこんな好待遇を与えてくれるとは。
これから先が何となく楽しみになった。
「あんたは、どこから来たの?」
先に入っていた女が美蘭に声をかけた。
おそらく若いのだろうけれど、どこか沈んだ眼をしていた。
「あたしは天暁の生まれだけど、しいて言えば西地区」
正直に答えると、女は不思議そうな顔をする。
「あんたはどんな目にあいかけたの?」
美蘭はきょとんとした顔で訊ね返した。
「どんな目にって?」
「あたし、親戚に妓館に売られかけたの、それをなんだか偉い人が引き取ってくれるって、それでこんなところまで連れてこられて」
言われて美蘭は目を丸くする。
単にいい仕事があるよと言われて来ただけだ。それに仲介人も王宮なら給料はいいよとしか言わなかった。
他の女たちも美蘭と目が合いそうになるとふいっと目をそらした。
とにかくさっさと体を洗って、気まずい入浴を終わらせた。
風呂から上がると、なぜか複数の女性に取り囲まれた。女官たちだろうか、お仕着せらしい緑色の着物をその女性たちが美蘭に着つけようとする。
「あの、自分で着替えられますが」
そういうが、そのまま強行された。
顔を横に向ければさっきまで浴室で一緒だった女性も同じようにされている。
そして、使う部屋に案内する、荷物もそこに置いてあると言われ、その部屋は妙に小ぎれいだった。
一応使用人として入るはずなのだが、つやつやと漆塗りの柱があり、寝台も広々としている。
上等な布を使った布団の上に、みすぼらしい自分の持ち物が妙に浮いていた。
美蘭は壁を見て仰天した。
壁に大きな鏡がかけてある。
こんな大きな鏡は初めて見る。美蘭の収入では掌程度の大きさの鏡すら買えないというのに、この部屋においてある鏡はちょっとした窓ほどもある。
大きさが大きさなので、こっそり盗み出すのは難しいが、少なくとも使用人の部屋に置くものではない。
「どういうこと?」
荷物はを確かめて、抜けている物がないのを確認した後、部屋から出た。
とにかく今の状況が異常だということだけはわかった。
同じように廊下に出てきた女達、そして、先ほどの女官達が、まだ部屋から出ていない女達を外に出るよう促していた。
そして、初老の女官達の上司と思われる女性が、そこに現れた。
戸惑う美蘭たちにこう宣言した。
「本日より、王の側室としてこちらに集められた方たちに申し上げます」
王の側室その言葉に美蘭の思考は凍り付く。




