旅立ちの朝
家に戻り、再び荷物をまとめ始めた真影に父親は怪訝そうな顔をした。
「これから寧州に行くから」
そういえば目をむいた。
「どうしてお前?」
「天曉以外の場所で、経験を積めと言われたんだ、何年も戻らないから、僕に借金のつけを払わそうとしないでね、寧州まで行くくらいなら父さんを始末することを考えると思うよ」
自分に収入の当てができたらやりそうなことをあらかじめ釘を刺しておく。
実際姉は仕送りも真影用と父用に分けて送ってきた。
下手すれば全部使い切ってしまいかねないと危惧していたのだ。
そして改めて納得する。
絶対この父親に王の外戚になったなどと知らせてはならない。それが父のためでもある。
国のためにならないと秘密裏に消されかねない。
「父さんに収入があるんだし、養わなければならない口はもうないんだ。仕送りをよこせなんて言わないよね」
あらかじめ先手を打つ習慣ができていた。
そしてちょっと心中で思う。
「姉さん、苦労が癖になっているの?」
あの王のもと妃として立つのはもしかしたら、前王の妃よりもきついかもしれない。まあ姉がいやだといっても通じなかったろうが。
荷物をまとめ終えると、近所にあいさつ回りをして、一応父親を頼むと言っておいた。いうだけで責任果たした、彼らがどうするかは彼らの自由だ。
そして改めて自分が生まれ育った場所をじっくりと見た。
あの時王とともにあいさつに来た姉もこんな心境だったのだろうかと。
王宮に荷物片手に舞い戻るとすでに寧州に向かう見習いたちが集まっていた。
大勢の見送りに囲まれている。
真影は一人それを横目で見ていた。
真影の荷物は研修に来た時とそう大きさは変わらない。しかし、他の見習いたちはさらに巨大化した荷物に囲まれていた。
全員いいところのお坊ちゃんばかりだからなあと真影はため息をつく。
馬車に積み込み切れないと、拒否される可能性が高い気がする。
一人だけ違和感を感じる人物がいた。李柴源一人だけ成人して久しい彼は真影に笑いかける。
「まあ、引率のようなものですね」
言われてそういうこともあるかもしれないと思い、それ以上は考えないことにした。
「あれ、お前の姉ちゃん来ないのか?」
金武が不思議そうに尋ねる。真影は薄く笑ってごまかした。
「やっぱり嫁いじゃうと、いろいろと大変でね」
姉夫婦が見送りに来たらとんでもないことになる。
「おい」
唐突に声をかけられた。何度か顔を合わせたことのある官吏だ。
「これを預かった」
包みを渡されて、真影は戸惑う。
「私の名は僅海栄だ、戻ってくるなら覚えておくがいい」
それだけを言うと、彼はそのまま真影に背を向けた。
厚紙に包まれたそれは何やら柔らかいものが入っているようだ。
少しだけめくってみる。青い布が見えた。かなり上等な布だ。それは着物だった。
襟のところの縫い方に姉の癖を見つけた。
「姉さん」
包みを抱きしめて小さく呟く。
「ああ、やっぱりなんか送ってきたのか?」
漢途がそれを目ざとく見つける。兄弟仲の良かったことは学問所でも知らない人間はいなかった。
持ってきた荷物と、新たに渡された包みを抱えて真影は馬車に乗り込んだ。




