終わったこと始まること
王は少々むしゃくしゃしていた。
そんな時慰めてくれるはずの寵姫は少々落ち込んでいるので、それどころではないようだ。
「吾亦紅殿は盃を受け取りました」
王に反逆したものは貴族に限り死に方を選ばせてもらえる。
毒の盃、短刀、紐。
そうでなければ斬首一択だ。
もともとは処刑方法もいろいろあったのだが、無駄を嫌った王により斬首以外の処刑は廃止された。
八つ裂きや百刺など手のかかる刑罰はそれなりに予算を食うのだ。
「盃か、一番苦しい死に方を選んだな」
盃に満たされた毒は死に切るのに数十分の時間がかかる。その間ずっと苦しみ続けるのだ。
しかし、短刀を選んでも素人の女が、致命傷となる場所を一度に刺しきることなどできず、延々浅い切り傷を作り続け、見かねた誰かが首を掻き切ることになるだけ。紐を選んでも首をくくるために結び目をつけることすらできないだろう。人一人吊るすために結び目を作るのは結構難しいのだ。それを考えれば盃一択しかなかっただろう。
死を選ばせるといったとき芍薬の妃はそんなことで命を絶つのかという顔をした。
しかし紐すらまともに結べない女が、一人世間に追い出されるのは結局、緩慢な処刑と変わらない。
健全な翼をもつ鳥は、ひな鳥の時から翼を折られて生きていた鳥の気持ちが分からない、逆もまた理解できない。
一番楽な死に方はなれた首切り役人による斬首のはずだが、それを選ぶ貴族はなかなかいない。
「しかしあの女、馬鹿すぎるだろう」
上級妃芍薬殿そっくりな芍薬殿の弟真影、その身柄を手に入れて、芍薬殿に王殺害の濡れ衣を着せようなど普通は考えない。
非常事態になったときには芍薬殿の身柄はとっくに女官と女性兵に取り囲まれ、そのような濡れ衣を着せる余地などみじんもなかった。
そんなことは普通の頭があればすぐにわかる。
誰が妃を放置しておくというのだ。
「まあ、真影が思ったより賢かったのはこちらにはうれしい誤算だが」
目の前には毒ではなく酒に満たされた盃。
落ち込んでいる妃に気を使わせたくなくて、あえて手酌で飲んでいる。
「陛下、吾亦紅殿は病死として扱いますが、他はどうなさいますか?」
「適当な罪状をつけて処刑しろ、火雲国も絡んでいる。それを考えれば真相を出すのはまずい、あちらにとってもこちらにとっても」
「とらえた中に火雲国籍の者がおりましたが、火雲国側に引き渡すということでよろしいですか」
「それでいい、それぞれの国はそれぞれの国でだ」
それだけを言うと部下を下がらせた。
盃の酒を一息であおる。
酔いは一向に訪れてこなかった。
「うわあ」
漢途がため息をつく。
配属先が寧州だと明記された書類を受け取ったのだ。
すでにそのことを知っていた真影は淡々と受け止めた。
「お前はなんでケロッとしているんだよ」
金武が圭樹を見る。
「うちは全州に支店があるからね、どこに行っても困らないよ」
恐るべき大商人の息子と全員感歎した。
こうなると下手な貴族より権力を持っている。
一度家に戻り、荷物をまとめて再び王宮に来て、それから迎えの馬車に乗る。
「長い旅になりそうだな」
寧州は国境沿い。国の中央にある天曉からは相当の距離だ。
似非中国風なのです。中国には、刑罰で百回なら百回二百回なら二百回、切れ目を入れるまで死なせないよう、手当てをしながら処刑するという緩慢な処刑方もありました。死に切るまで二、三日かかることもあったらしい。
八つ裂きなども、牛馬の力で人間をバラバラにするには少々力が足りず、軽く死なない程度に切れ目を入れておくことが大切とされています。
そういう手間を惜しんでよりスピーディにたくさん処刑するために斬首一択になりました。
人道?なにそれ美味しいな世界です。
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