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暗躍者

「人質って何?」

「普通親を脅迫ってことだろ」

 吾亦紅の妃が立ち去ってから、圭樹と漢途がそう呟きあう。

「誰を人質にするんだろう」

 真影が呟く。

「そりゃ、金武じゃないのか、確かお父さんが将軍のはずだ」

「でも、それくらいじゃ効くか? 俺の父親はいざという時は死ぬ覚悟を決めておけとかいつも言ってるぞ。

 実際俺に刃物を突き付けても捕まるような未熟者に用はないとか言って、さっさと見殺しにしそうなんだが」

 代々続く軍人家系の殺伐とした親子関係を暴露した。

「でもそれはそれを知らなければだろう。僕や圭樹ではありえないんだし」

 下級官吏の息子と商人の息子はおそらく範疇外だ。

「いっそ圭樹、交渉しろよ、お前の実家は国内有数の貿易商だろう。それなら、その伝手で協力しますとか言って、それで俺たちの命を買ってくれ」

 漢途がそう言いうと圭樹はそれはそれは冷ややかな表情で言い返す。

「仲間になるなら、前の仲間を殺せるよなとか言われて、お前らを殺せとか言われたらどうする気だ?」

「ええと、それは」

「思い付きで物を言うな」

 漢途が黙りこくった。

「でも考えようによってはあり得るかも」

 真影がそう呟く。

「状況はわからないなりにいろいろ考えておくべきだろう」


 彼は王宮の隅を静かに移動していた。

 王族を守るために存在する陰、そう呼ばれている彼は下級官吏が使用する応急の隅にいた。

 わざわざ奴婢の衣装をまとい、掃除道具を片手に持って。

 掃除道具には暗器をたっぷりと用意していた。

 吾亦紅の妃の様子を確認した。

 陰は基本的に王族を守るために存在する。そのため王族の暗殺だけはたとえどれほど命じられようとも従うことはなかった。

 ゆえに先代の王の時は、民間の暗殺者とすべての影が戦う羽目になった。

 とりあえず今は反逆者等の相手をする普通の仕事に戻れた。そのことに安堵しながら彼は吾亦紅の妃の動向を見ていた。

 どうやら、物置小屋に突っ込まれた連中の様子を見ているようだ。

 先ほど行方不明の連絡のあった。見習いの四人だろうか。

 とりあえず殺されてはいないようだ。

 それではさっさと仕事を始めなければ。

 そう思いながら、標的を定める。

 吾亦紅の妃を迎えに来たのは吾亦紅の妃の兄だった。

 まずはこいつか。

 短い吹き矢を取り出して、ふいっと打ち込んだ。

 そしてそそくさとその場を去る。

 自分の腕なら外すはずはない。


 一人の男がいきなり床に倒れた。

 息が苦しいと訴えようとするが声が出ない。

 傍らの妹はこんな時に役には立たない。従者を置いてきたのがまずかった。そう思った直後彼の意識は闇に沈んだ。



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