笑う妃
王は玉座の上で報告を聞き続けていた。
傍らには火雲国の使節団の長が座っている。
「こちらもこちらだが、そちらも相当のようだな」
薄く笑う。しかし相手は硬い表情を崩さない。
「すべてはそちらのご配慮のままに」
恭しくそう相手が言えば王もそれに答える。
「双方の膿を出し切るためだ、出し切ってようやくきっちりと話ができるというものだ」
また新たな報告者が現れた。
「当方に、行方不明者が出ました」
そう言ったのは見習いの制服を着た男だ。
見習いたちの中で代表のようなことをやらせていたはずだと王は記憶していた。
「行方不明者だと?」
眉を顰める。この事態に見習いは最初から考慮の外に置かれていた。状況を尋ねれば。
「はい、どうも、同室のものが、洗濯物をため込んでいたので争いになり、それで洗濯すればいいだろうと言って、日が暮れてから洗濯場に行ったきり帰っていないそうです」
王はそのまま首をかしげる。
「関係、あるのか?」
使節も自分に聞かないでくれと顔をそらした。
「その、行方不明者の名前は?」
この忙しいのに、こっそり抜け出して遊びに行ったという落ちならただではおかないと王は軽く決心して尋ねる。
「高漢途、呉金武、林圭樹、河真影の四名です」
「もしや、何かに巻き込まれた可能性もある、何かを見られたと勘違いされたとか、一応捜索を出せ」
傍らの部下に捜索の手配を任せ、再び報告を聞き始めた。
新たな声が聞こえてきた。何故新たなとわかるのかといえば、それが若い女の声だったからだ。
女が相手側にいる気配は全くなかった。だから新しいのがやってきたのだろうと判断したのだ。
そっと、物置の扉の隙間から覗いてみればそれは、賢覧に着飾った吾亦紅の妃だった。
一部の隙もなくと言いたいところだが、結い上げた髪が一筋崩れ落ちている。
「ああ、そういえば、吾亦紅の妃って、結構偉い人の娘って言ってなかったか」
金武がそう囁く。
「そんな話も聞いた気がするけど」
そう言って漢途に視線を集める。
「確かにそうだ、だけど、なんでこっちにきてるんだ?王の暗殺ならそっちにいたほうがいいだろうに」
もしかしてこっちの予想は外れたかなと思うが、それでも何とか情報がほしいと様子を探るべく扉に張り付く。
扉に小さな戸がつけられていた。どうやら鍵がかかったまま何かを出し入れするためのものらしい。
いきなりそれが空いたので、扉に張り付いていた四人は思わず飛びのいた。
吾亦紅の妃はまじまじと四人の顔を見ていた。
「お父様に伝えて、いざという時は人質に使えるって」
赤く塗られた唇が笑みの形にゆがむ。その笑顔はそれなりの美女がしているはずなのに異様なくらい不快感を感じさせるものだった。




