悪い予感
わけもわからないまま男達に取り囲まれ、真影達はかび臭い一室に放り込まれた。
物置小屋か倉庫のような場所らしく、閂は外についていた。
「あれ、誰かわかる?」
貴族の端くれである漢途や金武なら知っているのではないかと聞くと、もしかしたらという注釈付きで、おそらく外交関係の仕事をしている大臣ではないかと答えられた。
「どういう状況だと思う」
圭樹が目を細めた。
空気取の拳ほどの窓のほかは何もなく脱出は不可能だろう。
「とにかく情報がないと」
「情報があってもどうするんだ? ここから出られるのか」
そう言われてしまってもどうしようもない。
「とりあえず、取引の材料としてだ」
自分たちの命は相手に握られている。それをどう取り返すか。
話し声が聞こえた。
「あれ、ちょっと火雲国訛が入ってないか?」
この国を含めた近隣諸国は言語はかなり似ていて、不通に会話が可能だが、それでもそれぞれの国訛、わずかな発音の差が存在する。
彼らの国水碧国より、かなり高低差が激しい発音なのだ。
「まさか、とは思うが」
漢途が小さく呻く。
「今の王が即位する前だが、火雲国がこの国を侵略してくるという噂があったんだよ、火雲国は内陸国で、海がない、そして我が国は豊富な港と、河川で交易が盛んだ、港は内陸国にとって宝だからな」
「だが、今の王が即位された、そして急速に国をまとめ、内乱を鎮めた」
金武が後を続けた。
「たとえ内乱続きであったとしても、仮にも国を取ろうというんだ、その下準備には相当の時間がかかる。その時間で王が国の地盤を固めてしまった。無傷で国を取ることなど不可能なくらいな」
漢途と金武は貴族の生まれだ。もし、この国が侵略されていればただでは済まないところだった。
その点自分は気楽でよかったと真影は思った。下級官吏の子供など、わざわざ始末するには及ばない。それに商人の息子である圭樹にとっても、媚びへつらう相手が変わるだけだ、世の中の人間は高いところにある利点を声高に言うが低いところにいるのも、それなりに利点があるものだと思う。
今のように官吏にはなれなかったかもしれないが、それなりに生きていく手段くらいは得ることができただろう。
「そう、王がいらっしゃったから今がある」
圭樹の声が低くなった。
「王がいまこの国の地盤を固めておられる。だが、今王がいらっしゃらなくなればどうなる? 王の妃、芍薬殿が懐妊したという話は聞かない。よしんばなさっていたとしても、かの妃には王以外の後ろ盾など存在しない。おそらく王に連座して失脚なさるだろう」
真影の顔から一気に血の気が引いた。
「まさか、王を弑したまうつもりなのか?」
この国の重しは王。そしてその重しが無くなればすべては元の木阿弥と化す。
「そして、そんな秘密を知ってしまったと誤解された俺たちの命は、風前の灯というわけだ」
圭樹は頭を抱えてしまった。
「俺達をさっさと殺してしまわなかったのは、うかつに死体を残して騒ぎになるのを遅らせるだけだ。王を弑してしまえばその次は俺達だ」
この予想は、何かの間違いであってほしかった。しかし平仄が合いすぎる。
四人の背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。




