合格の裏側
学問所に合格報告に行くと、先輩がどんよりと暗雲をしょって座り込んでいる。
教官に合格通知を見せると、教官はわがことのように喜んでくれた。
「それでどうしたんですか、あれ?」
苔が生えそうなくらいじめじめとした空気を醸し出している先輩並びにその他大勢を同じく報告に来ていた呉金武が指さした。
「今年な」
とつとつと教官は話し始めた。
不正入試が昨年とは比べ物にならないくらい厳しくなったこと。試験の点数を贈収賄で買うことが、厳しく取り締まられるようになったことなどを。
「それで落ちた奴は来年の受験資格も取り消しになった」
四人の顔が引きつった。
一年の受験資格停止はかなり痛い。
「まあ、偉い人にちょっとお金を積んだらしい、その偉い人が捕まってな、それで、まあ金を出した連中の名簿なんかも没収されて」
だらだらと真影は背中に冷や汗をかいていた。
何だろう、この記憶を刺激する言葉は。
真影の姉、美蘭は王宮の侍女奉公に出ているうちに高級官僚だという触れ込みの義兄に見初められ結婚と相成った。
義兄とは数回話しただけだったが、その中に気になることを言っていた。
「このうち、お金ないよね」
結構物事をはっきり言う人だった。
「ありませんねえ」
見ての通りの貧乏所帯ですが、何か?
「そういえば、官吏登用試験、試験管や偉い人のコネってどう思う」
その時、真影はちょっと粋がっていた。
だからはっきりと言ってやった。
「そんなものに頼らない実力をつけるのが目標です」
義兄はにっこりと笑って言った。
「それがいいよ、最近は実力重視になってきているし、これからも頑張りなさいね」
なでなでと幼児にするように頭を撫でてくれたけれど。まさか、薄々こういう展開になると知っていたからこその発言だったのではないだろうか。
義兄が本当に高級官僚なら、知っていたとしても全然おかしくない。いや確実に知っていただろう。
知っていたからこそ、不正入試に興味ないという発言に安堵したとかいうオチはないだろうか。
やばい、これは口に出したらやばすぎる。
入試のコネとかお金問題に最近厳しくなったらしいという噂は多少聞いていたが、自分の情報の出どころは高級官僚だ。
何で黙っていたとか逆恨みされかねない。
そういう話だと知らなかったという言い訳は許されないだろう。
そういう話ならきちんと詳しく教えてくれよ義兄さん。
と心中でここにいない義兄を罵るも届かないことはわかっている。
「どうした、顔色悪いぞ」
漢途が真影の顔を覗き込む。
「な、何でもないよ」
口調は引きつっていなかっただろうか。
「出ようぜ、これ以上ここにいても気まずい」
圭樹がそう言ってそそくさとその場を後にした。
四人で人気のない場所まで来て誰も聞いていないのを確認する。
金武が呟く。
「ああ、だから俺たち合格したのか」
真影は必死で口を開かないようにしていた。だからそれに食いついたのは圭樹だった。
「だから、今年は合格者が激減したんだよ、だから俺たちみたいな体験入試が合格したんだろうって話だよ」
普通体験入試で不正をする奴はいない。落ちる前提で受けるからだ。
「そっか、だからか」
四人の乾いた笑い声が風に流されていった。