襲撃
高級官吏と女官に傅かれ芍薬の妃は静かに時を待っていた。
王と使節の話し合いが終わり、宴の開催と同時に縁石に手王のそばに侍る。
今回は珍しく、吾亦紅、菫、雛罌粟の妃達も花を添えるために別室で待機していた。
芍薬の妃は綿をたっぷりと詰めた椅子に埋もれるように座っている。
遠くから聞こえる楽の音を聞きながら軽く目を伏せた。
豪奢な衣装ははっきり言って重い。
分厚い錦に金糸銀糸で刺繍が入っている。
髪は高々と結い上げられそれに置物かと問いただしたくなるほどの飾りがつけられている。
明日は首が筋肉痛だなとすでに覚悟を決めている。
国家の威信のためとはいえ、時たまこうした拷問に耐えなければならない、楽な仕事などないということだ。
ある程度宴が進んだ後に綺麗どころ登場という手はずになっている。
人が呼びに来るのを待っていた。
その時、轟音が響いた。
「何事」
官吏と女官たちが右往左往し始める。
「あちらで火の手が上がっております」
女官の悲鳴が響く。
芍薬の妃が窓を見れば、赤々とした炎が上がっているのがわかる。
確かあの辺りはあまり使われていない建物があったはずだ。
芍薬の妃はすっくと立ちあがって叫んだ。先ほどの楚々とした妃の面影はすでにない。
「騒ぐな、まずは情報を集めろ、そこの、ちょっと言って聞いてこい」
うろたえている官吏を指さして命じた芍薬の妃は次に別の官吏に命じた。
「荷物を搬入する業者を一つ所に集めて拘束するよう軍部に伝えろ、外部から相応のものを持ち込んだ可能性が高い」
それだけを言うと再び椅子に沈み込んだ。
「避難なさいませんか?」
女官が恐る恐るという風に訊ねた。
「火が回ってきそうかしら?」
聞き返すと、女官は今のところはと言葉を濁した。
「あの二人が帰ってきてからでいいだろう、今は時を待つ」
そう言った芍薬の妃は目が座っていた。
「さて、どちらの仕業かな」
再び爆発音が響いた。
「ずいぶん、派手にやっていること」
そう言って芍薬の妃は自分の衣装を見下ろした。
重いので歩くので精いっぱい。走るなんて夢のまた夢だ。
厄介だなとつぶやきながら、芍薬の妃は窓の外を見る。
炎の上がっている場所が増えている。
「まさか王宮が焼け落ちるのでは」
女官たちが恐ろしそうに囁きかわす。
広大な王宮をみすみす全焼させてしまうほど王宮に努める武人たちが無能でないことを祈りつつ芍薬の妃は思考をめぐらせる。
先に行かせていた管理が戻ってきた。
「申し訳ありません。あちらも混乱していて、あまりよくわかっていないようです」
「陛下はご無事か?」
「ご無事です」
芍薬の妃は大きく息をつく。炎の上がった方向から王のいない場所であるのはわかっていたが、あの王は時々配下の思慮を超えた行動をとる。
後から出た官吏も戻ってきた。顔見知りの武人を連れている。
「芍薬殿の仰せの通り、荷を搬入してきた商人どもを一つ所に集めて拘束いたしました」
ひざまずいた姿勢報告を聞く。
「どれほどの数、いましたか」
「思ったよりは多くおりました。物見遊山で居残ったものも多かったようで」
「そう、何も言わず、閉じ込められていたならさぞ不安でしょうね」
再び芍薬の妃は立ち上がる。
「これより私の言う通り準備をなさい」




