王の寝室
王のもとに向かう場合、普段とは別の衣類をまとわねばならない。
まず、金属の装身具をつけることは許されない。そのため精緻な絹糸で作られた組紐を凝った形に結びあげて装身具の代わりとする。
普段とは違い、たっぷりと布を使った体を締め付けない衣装をまとう。
模様はほとんどない。
これが、王に呼ばれた妃の装いだ。
つまり何をしに行くか誰もが知っている状態で。
「わかっているけど、恥で死ねそうな気がする」
とりあえず団扇で顔は隠せているが、王に呼び出されるのは対外芍薬の妃なので誰かは隠せない。
芍薬の妃は淡い青の衣装を翻して進みながら呟く。こういう時大概淡い色調を選ばれる。
小さな声だったので背後の女官たちには聞こえなかったようだ。
花の形に結ばれた組紐が横顔を隠すように髪に結び付けられている。
後宮なので、男はほとんどいない。もしいたら絶対こんな格好で進めない。
それでも王の資質として使われている重厚な扉の前に立った。
その前に背の高い、女性としてはがっちりとした体つきの女官が番をしている。
その女官は戦闘訓練を受けた、兵士と女官の中間のような立場にいる。
「芍薬殿、到着でございます」
女官が先ぶれを叫ぶ。それをできるだけ意識を向けないようにしてみていた。
女官兵が扉を開けると、芍薬の妃だけが扉の内側に入る。
「陛下、お召しにより参上いたしました」
そう告げれば王は書類を手に執務机の前に座っている。
「そばに寄れ」
そう言われて芍薬の妃は気色ばむ。
明らかに仕事の書類をいじっている。
「よろしいのですか?」
「これを見せるために呼んだんだ」
そう言われれば従うよりほかなく、芍薬の妃は王の傍らに寄った。
一枚の書類を渡される。
「これはそちらに持っていけないものだから」
しばらくその書類に目を通していた芍薬の妃は軽く目を伏せた。
「確かに確認いたしました」
「それでいいか?」
「陛下のなさりたいようになさいませ」
そう言って書類を返す。
「それと、茶会での話だが、ずいぶんと面白い余興ができそうだな」
それはおそらく模型を使った実験のことだろう。
「あら、許可を出しますの?」
「終盤当たりの余興にちょうどいい」
「陛下がそれでよろしいなら、そちらに丸投げさせていただきます」
つつがなく茶会を終えた。それで、一番大きな仕事は終わっている。
後は適当に儀式などに花を添える程度だ。
「まあいい」
王が芍薬の妃の髪を束ねる組紐を引き抜いた。
日も一つで結い上げられていた髪がばさりと崩れて広がる。
「もうしばらくかかるから先に休んでいればいい」
そう言って再び書類に視線を落とす。
どうやら芍薬の妃の私室に持ってくるのがまずい書類を見せるためだけに呼ばれたらしいと悟ると、王の寝台に一人で横になった。
「あとしばししたら私は完全に眠りますので、朝まで起きませんよ」
そう言い切って布団をかぶる。
「ゆっくりとお休み」
それだけ言うと、再び書類仕事に戻った。




