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あほの締め方

 香樹姐さんの父が経営するちょっと高級な料亭の一室を予約した。

 奥まった二階の個室。そこで真影は髪を下ろし、姉の着物を着ていた。

 姉は身だしなみは最低限という質素な暮らしをしていたので、化粧道具はほとんど持っておらず、何しろ鏡を持っていない、薄い質の悪い紅を指すときには、水鏡を利用するのが関の山という暮らしぶりだった。

 そんなわけで、女物の丈の長い着物を着ただけであっさり女で通ってしまう自分に何やらやりきれないものを感じながらも、道を歩いていてもだれ一人違和感を感じていないようだった。真影は、いかにもおとなしそうなお嬢さんという演技をしていた。

 実際の姉は全くおとなしい女ではなかったが。

 香樹姐さんとのうちあわせは終わっている。

 あとは本番あるのみ。

 ペロッと真影は唇をなめた。


 やってきたのは、見事にでっぷりと太った男だった。

 二重顎がプルるんと震えるのがはっきりと見えた。父より年上のはずなのだが、脂肪でぱっつんぱっつんに皮膚が延ばされているカラか小じわが見えない。

 案内してくれたのは香樹姐さんだった。おそらくただの女中だと思っているようだ。

 実際年の割に老けているので、異様に童顔な姉と並ぶと、とても同じ年には見えない。

 表情のない香樹姐さんは、そっと人差し指で、何かをつつくしぐさをする。

 真影は小さく頷いた。

「ほう、奴の娘にしては可愛いじゃないか」

 似た後、耳まで酒そうな笑い顔。これに襲われたという娘さんはさぞ恐ろしかっただろう。

 体重からしても、抑え込まれたら逃げられない。

 さて、卓の上に贅沢な料理が並べられている。

 二人分のはずなのに、どう考えても五人分はありそうだ。

 かつて、天暁は深刻な食糧難に見舞われていたはずなのだが、どうやってこの脂肪を維持したんだろう。

 真剣に真影は疑問に思った。

 大亀に一杯継がれた酒で、少し気分が悪くなる。あまり酒に強い体質ではないらしい。

 しばらくは盛大に飲み食いさせていた。

 真影自身はほとんど飲まなかったが。

 そして、真影に手を伸ばしてきた。真影は身をかわすと、逆に相手の懐に入る。

 思ったより話の分かる相手と思ったのか総合を崩す。

 しかし、真影は、相手の懐の財布を抜いた。

 財布を持ったまま腕をすり抜けると、空いた窓から飛び降りた。

 身のこなしの軽さには自信がある。

 窓の外の木を伝って飛び降りると、女物の着物を脱ぎ捨てた。

 着物の下には、下働きのものが着るような簡素な男物の服を着ていた。髪を結わえ、炊事場に向かう。

 ふらっとやってきて、皿洗いを始めた真影を誰も不審には思わないようだった。

 根回しは完ぺきだった。

 そろそろかと上をうかがう。

「食い逃げだろ」

 香樹姐さんの怒号とともに、あらかじめ仕込んでいた強面のお兄さんたちが、どんちゃかやっている音が聞こえた。

 身ぐるみ剥いで、外に放り出す手はずになっている。

 姉の名前を出したところで、とっくに嫁にいって、最近家に戻っていないと言われるのがおちだ。

 財布は香樹姐さんに返しておくことにした。

 どうせ一人で飲み食いしたのでこれでいいことにした。


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