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あほの締め方

 真影は料理屋の卓を拭いていた。

 作業をしながらも考えるのはむかつく父とその上司のこと。

 そして、肝心のことを聞くのを忘れていた。義兄の職場はどこか聞いていない。

 義兄の具体的な職場を聞いていれば、そっちに文句を言えと言い逃れるのも可能なのだが。王宮の職場なら、文句を言いに行けるわけもないだろうと推測が立つ。

 しかし具体的な職場をいえないのなら、言い逃れの嘘だと決めつけられない。

 どうしてこんな初歩的なミスをしたのか、自分が信じられない。

 王宮に勤める偉い人らしいと聞いただけであまりのことにてんぱってしまい肝心のことを聞き忘れてしまったのだ。

 この時点で真影は、はぐらかされた可能性に気付いていない。

 よくよく考えれば、姉を差し出すのは不可能なのだ、姉の住所を聞いていないことにも気づいた。

 おそらく、王宮近辺にある貴族のお屋敷街のあたりであろうことは推測できるが、どのあたりに住んでいるのかも聞いていない。

 この時点でおかしいと気づくべきだったが、真影はそれどころではなかった。

 こうなったら、奥の手を使うべきだろうか。

 幸い、この店の主の娘と姉は親しかった。姉のため、そして将来的に姉から謝礼を引き出すからと言いくるめれば協力をしてもらえる可能性はある。

 新王が即位して、最近、かなり治安が向上してきているのも、真影の考えの後押しをしてくれた。


 姉の友人、香樹姐さんはあっさりと真影の話を受け入れてくれた。

 ぽっちゃりとしていかにも人のよさそうな顔をしているが、あの混乱の時代の中身代を減らさなかったやり手商人の娘は、垂れた細い目から薄く油断ならない光を放っていた。

「いいよ、美蘭には世話になったし、それに、王宮の偉い人に恩を売れる機会というならこちらとしても願ってもない」

「ありがとう、助かる」

 真影は素直に感謝した。姉は内乱だのの混乱期に、若い衆を束ねて、ごろつきなどを制圧する役目も織っていた。また彼らを率いて店に押し入った強盗を叩きのめすという後見をしていた。

 怒らせると恐ろしすぎる。それが姉に対する評価だった。

「それで、そっちの考えはどうなの?」

「まあ、どんな目に遭わせたとしても、良心の呵責など一切感じる必要のない相手であることは間違いありません」

 そう言って真影は、父親の忘れ物を届けに行って、狼藉をはたらかれた娘さんの話をした。この手の話が、世の女性の顰蹙を買うことは間違いないと確信を持ったゆえのことだ。

「へえ、なるほどねえ」

 香樹姐さんの唇が釣りあがる。

「美蘭のことがなくても、協力してあげたくなる話だよねえ」

 福々しい笑顔なのに、謎の圧迫感を感じる。香樹姐さんの怒りが、真影に向いていないのはわかっているが、それでも軽く身震いする程度には怖い。

 この店は、香樹姐さんの父親から預かっている父親の財産の一部だ。父親自信はもっと高級店を経営している。

 その店で、計画を実行に移させてもらいたいと申し出た。

 香樹姐さんはしばらく考え込んでいたが、大きく頷く。

「間違いなく、美蘭のご亭主に感謝してもらえるんだろうね」

「それはもちろん」

 真影は大きく頷いた。


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