茶会の終わりに
お茶会が和やかに終了した。
「皆様、ご苦労様でした」
芍薬の妃が女官たちをねぎらう。女官たちは恭しく一礼する。
「余ったお菓子はそちらで分けなさいな、お茶もね、わずかばかりのものですが」
お茶とお菓子は足りなくなるよりはいいと多少大目に仕入れていた。余る前提だったので、余った分を報酬に上乗せしたのだ。
「では、後片付けをお願いしますね」
一礼すると、妃付きの女官だけを引き連れてその場を後にする。
あわただしく、女官たちが後片付けを始めた。
自室に戻ると、女官たちに手伝わせ、豪奢な衣装を脱ぎ捨てて、寝椅子に座って息を吐く。
麻の下着がじっとりと濡れて気持ちが悪い。
豪華な衣装というものは織目が細かくその上に精緻な刺繍が施されているので通気性が極めて悪い。
そのうえ最近暖かくなってきたので重ね着がだいぶつらくなってきた。
髪をほぐさせている間に冷たい水を飲む。
「湯あみの用意はできているかしら」
上級妃には専用の入浴施設が用意されている。
下級妃は交代で使わなければならないが。しかしそれは別に差別というわけではない。上級妃ほど、儀式参加などで、湯あみをしなければならない頻度が高いのだ。
「一人で入る、誰も呼ぶまで来ないで」
ほぐした髪をまとめただけの格好で浴室に向かう。
数少ない一人になれる時間だ。その貴重な時間はできるだけゆっくりと楽しみたいので、湯はぬるめだ。
浴槽のふちに手をついてため息をつく。
幸い、自分が浴室にいるときはたまに乱入してくる王も今は来客の面倒を見るのに忙しくこの頃は来ない。
湯が立てる水音だけが響く。
髪をまとめていた布をはずすと湯の中に長い髪がたゆとう。
しばし浴槽に手足を伸ばし瞑想するように目を閉じる。
「芍薬殿、陛下より伝言がございます」
湯から身を起こす。身に着けた薄布が身体に張り付いて、湯が滴っている。
「話せ」
「今宵は、芍薬殿から陛下の御許に参られるようにと」
「わかりました」
芍薬の妃は身に着けていた薄布を脱ぎ捨てると、その裸体に用意された糠を手にする。
「入ってきて、手伝っておくれ」
女官たちが芍薬の妃を取り囲み、その髪や肌を磨きたてる。
それを他人事の様に無言で芍薬の妃は浴室に立っていた。
まとめるのがやたらややこしくなってしまった茶会の記録を手に真影たちは呻いていたが、その様子をすでに仕事を終えてしまった柴源はそれを横目にお茶を飲んでいた。
「まあ、頑張ってくださいね、お菓子が無くならないうちにね」
お茶会で書記を務めていた者たちはふるまわれた茶菓を口にしている。
「そういえば、お妃さまはどうだったんです」
それでも気になるのか、妃の容姿を訊ねる。
「美人でしたよ」
想定の範囲内のことをこたえる。
「それはわかっているけど」
「妃の美醜など我々には関係ないでしょう、それが関係あるのは王だけだ」
柴源はそう言って花の形の焼き菓子を手に取る。
卵の黄身で照りをつけてあり、サクサクと崩れる。
羨ましそうにそれを見ていたが、それでも曲りなりに仕事を仕上げ、ほかに取っておいてもらった茶菓子を頬張る。
「頭は悪くないようですね、この機会もあなた方は苦しんでいるが、今後何らかの意義を見出されないとも限らない、そんなところですか」
真影は仕事の終わった開放感で話を半分聞き流していた。
「ま、あの妃はちょっと何をやらかすかわからないかもしれませんねえ」
その時真影はのどに詰まらせたお菓子をお茶で流し込んでいた。




