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あほの締め方

「今、なんて言った?」

 真影は父親の顔を見据えていった。

 学問所から宿題がいっぱい出たな、ちょっと近くの料理屋で給仕の仕事もあるのに、どうしようかな。などと思いながら帰宅した矢先、父親がとんでもないことを口走った。

「美蘭を妾に差し出せと、上司から言われた」

「もちろん、断ったんだろうね」

 父の上司は当然のことながら、父より少し年上だ。むろん財産のある男が若い娘を妾にするのは珍しいことではないが、身内にそうなってほしいなど一度も考えたことはない。

「いや、それが」

「断ってないの?」

「娘なら、言うことを聞かせろと」

「できるわけないでしょ」

 姉がおめおめそういうことを聞くとは考え難い、それのもっと切実な問題がある。

「だって、姉さん、もう嫁にいってるじゃないの」

 そう、先日、姉は、勤め先で見つけたという彼氏を伴い里帰りしてきた。

 王宮に勤めるお偉いさん、らしい。

はっきり言って、父親の上司よりはるかに条件がいい。

王宮勤めなら、それだけで、下級官吏より身分が高く。そのうえ、貴族出身だろう。学問所で、貴族生まれを見慣れた真影にはすぐにわかる。さらに体格が立派で、顔もいいし若い。はっきり言って、下級官吏の娘が嫁げる相手じゃない。

「大体、お金はどうするの?」

 姉の結婚相手から、多額の金銭を受け取っている。当然父親は既に使い込んでいる。

「返せるの?」

 返せるわけがないので、父親は無言だ。

「とりあえず、上司って誰?」

 上司は複数いる。当然父親より全員年上だが。その名前を聞いた瞬間、真影は本を束ねた荷物で父親をぶん殴った。


 その上司は、いろいろと問題がある人物として語られていた。

 女関係にだらしないのはもちろん。いわゆる人の仕事の成果の横取り、金銭の横領などの黒い噂。

 さらには父の同僚の娘さんが、弁当を届けに職場に行った際、無体を働かれたという話も聞いた。

 そんな相手が、姉に妾になれというのだ。これを怒らずにいられるわけがない。

「とっとと断って来い」

 もう二三発ぶん殴ってやろうと、手近な凶器を探す。

 真影の本気を感じ取ったのか、父親は慌てて後ずさる。

「だが、断ればどういう目にあわされるか」

「断らなかったら、それはそれで問題だろう」

 真影は自分は姉に比べれば温厚なほうだと思っている。もしこの事実を姉が知れば、殴るどころか刃物を持ち出すかもしれない。

 姉の凶刃にさらされるのがどちらかは知らないが。

「少しは姉さんのために犠牲にならない途とか思わない?」

 真影は虫を見る目で父親を見た。

「お前、それでも息子か?」

「そっくり言い返すよ、それでも父親?」

 せっかく幸せな結婚をした姉を自分の都合でぶち壊そうなど、それも嫁ぎ先から多額の金銭を受け取っておきながら。その言い分だけはまともじゃない。

 勤め先には完全に遅刻だが、きっちりと言い聞かせなければならない。

「じゃあ、お前はどうすればいいというんだ」

 普通なら、すでに娘は嫁ぎましたと言えば、収まるだろうが相手が相手だ。

「それでもごねる可能性はあるか」

 さてどうしようか。せっかく幸せをつかんだ姉に迷惑をかけたくないのだが。

「とりあえず、仕事に言ってくる」

 こうしていても時間の無駄。とりあえず稼ぎながら状況打破を考えることにした。



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