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別れの時

 一人の男が、信じられない目で目の前の紙を見ていた。

 それは辞令だった、それも破格の出世の。

 最近まで知らなかったが、娘は王の愛妾になっていた。

 その娘が懐妊したのだ。

 娘が第一王子ないしは第一王女を産めば、それは彼の孫だ。応じないし王女の祖父にふさわしい身分を用意してくれたのだ。

 湧き上がる歓喜を抑えきれず、思わず足が踊りだす。

 父親が世にも冷たい目で自分を見ていたが、そんなことは気にならない。

 そして、息子は目を細めて笑っている。

 やはり王子の叔父になるのがうれしいのだろう。

 浮かれて歩いていると、恭しく迎えに来たという男達が現れた。

 その男の手を取り、そして背後を振り返る。

 息子は、笑みを深くしていた。

 

 速足で去っていく父親を見送った真影は笑みを消す。

「お前、お前は」

 祖父が、あえぐように真影を見据えた。

「何か?」

 真影は涼しい顔で祖父を見た。

「何を考えている?」

「とりあえず、これからのことですね、まさか将来が、国家の話になるとは思ってもみませんでしたけど」

「何故、何も言わなかった?」

「仕方ないでしょう、王のご命令です、まさかこの国で王のご命令に逆らえる人間がいると思っているんですか」

 言っていることはもっともだ、しかし、それだけでないのもわかっている。

 もし王命がなかったとしても、この子供は同じようにしたはずだ。

「お前は、これから何をするつもりだ」

「別に何も、これから立派な官吏になるため修行の日々ですよ」

 真影を寧州に戻すよう、王からの命令も出ている。もうじき真影はここからいなくなるのだ。

「それでは、旅支度をまとめねばなりませんので」

 そう言って真影は一礼する。

 形ばかりの。

 苦々しい顔で、真影を睨む。祖父だけでなくその他の親族一同がそろって。

 ふと一人の顔が浮き上がって見えた。

 そう言えば、その一人だけ、姉が芍薬殿だと伝えた。

 真影はにっこりと笑いかける。責められるいわれはない。真影の行ったことは嘘ではないのだから。

 足取りも軽く、懐かしい寧州に戻るための準備を始めた。

 今頃父親は船に乗せられているだろうか。

 名目だけの長官の地位。その実態は定期船の補給路になっている無人島の番人だ。複数の役人だけが起居する施設と、定期船の乗組員が使うわずかな施設と真水の湧く泉があるだけの場所。

 つまり真影の父親が馬鹿をやらないように島流しにしたのだ。

「状況が分かったらどうなるかねえ」

 くすくすと真影は笑った。

 あらかじめその話は聞いていた。だからいまさら驚かない。姉も大いに賛成しただろう。

 自分たち兄弟だけでなくお腹の子供の将来もかかっているのだ。

 くすくすと真影は笑う。

「いい気味だ」

 あの父を名前だけの上司と扱わなければならない役人たちにh少し憐憫の情も湧くがもともとそういうことはよくあるそうなのでそちらもわきまえているだろう。

 真影達はこれからを考えなければならないのだ。


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