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待ち受ける

 菫が用意した手引きの相手に男を引き渡すと、真影は、急いで別の道を通って芍薬の間に入った。

 芍薬の間では、予想以上に青い顔色で姉が床に伏せっていた。

 こんなにも弱った姉の姿を初めて見た。

「ごめんね、ご飯が食べられなくて、起き上がれないの」

「あの、姉の命は?」

 付き添いの女官に尋ねたが、今は何も言えないとだけ言われ、真影はうなだれた。

「ごめんね、私のせいで」

 白い手が真影の顔に延ばされる。

「姉さん」

 真影は顔を伏せた。

「大丈夫だから、ちゃんと元気になるから」

 力なく笑ってみせる。

「顔を見るだけ見たんだから、こっちの準備も急いで」

 菫が、そう言って真影の襟を後ろからつかんだ。

「扉の芍薬の傘りを隣の部屋と入れ替えたから」

 やはり大事を取って部屋を移ることをやめたので反対側の部屋を芍薬の部屋に仕立てることにしたのだ。芍薬は牡丹の間の隣とだけ言われているのでそれが右なのか左なのかは後宮に入ったことのない者にはわからないだろうという含みもある。

「とにかく時間がない」

 そう言われて真影は隣の部屋に通された。

 以前にも思ったが、着るものが多い。なんでこんなに重ね着をするのか。実際、夏場は儀式以外出てこないときはここまで着こまないらしい。

 そのうえ前段階として香料を焚きこんである。一枚一枚丁寧にだ。その手間暇が怖い。

 肌着一枚とってもおそらく近所のお姐さんが着た嫁入り衣装一式より高価なのは間違いない。

 こんなものを普段着にしているのかと、貴族や王族の生活を垣間見て、心底呆れかえった。

 後日、経済の話で姉から説教を食らうがとにかく、本当に糸で織ってあるのかと疑いたくなるほど滑らかな絹織物を身にまとう。

 そして、地獄の髪結いだ。短時間で済ましてしまわなければならないので、とにかく急ぐ、頭皮が引きつれていたいなどという泣き言は一切聞いてもらえない。

 化粧が始まったときにはあきらめの境地に達していた。

 表情さえ動かさなければすぐに終わるのだ。それに真影は仕事柄表情を動かさないでいるのには慣れていた。

 無表情で控えているのも下級官吏の仕事の一環なのだ。

 鏡の中には、姉とよく似た女が立っている。

 姉ではない。どんなに似せても姉にはなれない。

 そして真影でもない。絶対認めない。

「後は待ち構えるだけだね」

 紅を刷いた唇を動かす。

 紅を刷くとまるで唇だけが別の生き物になったような錯覚を覚えた。

「それじゃあ、やりますか」

 真影は豪華な長椅子に座った。

 内装は替えるわけにはいかないので別の花が記されたままだ。それに気づけば罠にかかったことも気づくだろう。だがそれはどうでもいい。

 菫は涼しい顔で真影の傍らに立つ。

「隣室にすぐとらえる手はずはできております」

 上級妃は複数の部屋を持つので、別室に護衛を入れておいても問題ない。

 物音はすぐに聞こえた。


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