姉の異変
下級妃の生活は一切建物の中だけで行われる。
王専用の娼婦と姉は言ったが、王が来ないこの状況はほぼ囚人の生活だ。何しろ建物の中の庭に降りるのすら許可がいるのだから。
ついでに 亡き母に対して逃げた気持ちはよくわかると言いたい。
それでも相手は選んでほしかったが、そういうことをやりそうなのはあのバカしかいなかったのだろう。
まあ、彼女達はまだましだ、短期間ですぐに出ていけるのだから。
とにかく、真影は、例の間男(偽装)を後宮内に匿う仕事をしていた。
元々予定されていた収容人数よりはるかに少ないので、空きスペースが充実しているため隠す場所に困らない。
定期的に食料と身体を拭くための布やお湯を届ける程度だ。
ここの女官には鼻の利く女性が多いらしい。
そのためわずかな異臭で嗅ぎつけられる可能性があるのだとか。
葱餅などを差し入れると、むさぼるように食べている。
この男の背景など知らないほうがいいのだろう。知ったところで胸糞悪くなるだけだ。どちらに対してそう思うのかは知らないが。
この後真影は菫に呼び出されている。
何事か予定と違うことが起きたらしい。
一応下級妃と、下働きの女官という格好をしているので、真影は膝をついて一礼する。
「困ったことが起きました。そのため別の任務についてほしいのです」
菫は物憂げにため息をつく。
こうしてみるとなかなかの美人だ。まあ、真影にはあまり関係がないが。
「特別な任務って何ですか?」
また厄介ごとがと真影もため息をつきそうになる。
「芍薬殿が寝込まれました」
その言葉に真影は目をむいた。
「あの、今どんな容体なんですか? 医者は何て言ってます?」
あの姉はどんな過酷な状況でも風一つひいたことのない健康優良児だ。その姉が床に臥せるとはどんな重病なのか。
「容体に関しては、微熱と食欲不振が主だとか、しかし、今のあの方はその体はあの方一人のものではないので、大事を取っていただくことになったのです」
思ったより病状は軽いようだが、些細なことから重症化することもある。
余談は禁物だ。
「とにかく絶対安静ですから」
真影も頷く。
「ですから、貴女に変わりに芍薬殿の部屋に入ってもらいたいのです」
真影は頷きかけて止まった。
「は?」
「此度の任務は、拝家のたくらみを逆に利用し弱みを握ることですが、そのために芍薬殿の協力が必要不可欠ですが、物理的に協力できなくなった、そこまではお分かりですね、幸いよく似たあなたがおりますし」
真影の顔から音を立てて血の気が引いた。
「芍薬殿を芍薬の間から別の部屋に移っていただいたら、すぐに代わりに入ってくださいね」
真影はその場で立ちくらみをおこしたが、菫はあえて見なかったことにするようだ。
頭がぐちゃぐちゃのまま真影はその場を後にした。




