犠牲者
美蘭は寝室で軟禁されていた。
多少だるさを感じるが、そこまで体調が悪いわけではないのだ。しかし、美蘭が食事を残したという知らせを受けた女官長がさっさと医師を手配し、診察を受けた美蘭は当分の絶対安静を命じられたというわけだ。
用足し以外は寝室にこもるよう強制される。
ひたすら寝るしかないのは退屈で、書物でも何でもいいから暇をつぶせるものを用意してほしいと頼んだが、却下された。
安静以外にしていいことはないらしい。
ひたすらカチャカチャ動いていたような気のする美蘭だが、いきなり暇になった今、ひたすら退屈をかみ殺していた。
さすがに寝台に針仕事を持ち込むわけにはいかない。うっかり落としてけがをするのは自分だ。
「こういう時、楽器が引けたら」
美蘭に楽器の素養は全くない。生きていくために必要な能力に楽器の演奏は含まれていなかったのだ。
「ああ、でも音でばれるか」
寝室の外で、女官達が見張っている。
寝台の脇に立たれたら、落ち着いて休めないと言って隣の部屋で妥協してもらったのだ。
「私が何もしないのがいいのなら、誰かに楽器でも弾いてもらおうかな」
楽器の弾ける女官に暇つぶしに何か退けと命じてみようか。
女官に何か命じる子音は美蘭にはめったにない。
そういう発想になったこともないのだ。
考えているうちに眠くなり、そのままうとうとしてしまった。
これが犠牲者か、
真影は目の前の男を憐れむような目で見る。
目鼻立ちはそこそこいい。しかしいかにも気弱そうな男で、おそらく弱みを捕まれて強要されたのは間違いないところだろう。
明らかに姉の好みではないのだが。
「それで、協力者が現れたの」
女官は得意げに言う。
その餌には釣り針がついてるから、思いっきり罠だからと真影は心の中で呟く。
その協力者が、菫だというのは既に聞いていた。
目の前の男が、上級妃用の後宮に入り込んだところをとっ捕まえて、尋問し、拝家に不利な自供を取ったらそれでおしまい。
まあ、確実に口封じで殺されるんだろうと目の前の男を見る。
「家族は、助けてくれるんだろうな」
それ、こういう時にはあてにしないほうがいい、真っ先に口封じされる。秘密厳守の仕事にはありがちだ。
まあ、もう始末されているんじゃなければ、真影のほうで、あっちに頼んであげてもいい。
ただ、目の前の男は救えない可能性が高い。
なんか元に戻った気分だ。
かつて国が荒れていた時、人の命は二束三文。人の一人や二人死んだくらいで誰も騒がなかった。
姉もこんな気分だったのか。
真影は顔を伏せた。




