新たな任務
そのあと菫がやってきて、あまり持ち場を離れると怪しまれるからさっさと戻れと言われた。
菫は下級妃に紛れた密偵らしいが、今は女官の制服を着ていた。
後宮では絹が主流らしい。女官の制服も絹製だ。
「あのさ、先代の王様の後宮はこの倍の規模だったんだよね」
「倍じゃきかないと思うな」
美蘭が答える。
「そりゃ財政破綻するわ」
「私もそう思った」
姉弟はそれぞれ頷きあった。金銭感覚でわかりあう貧乏世帯育ちだった。
「まあ、貴族間のいわゆるあれよ、あちらの家の娘が後宮入りしてるのにあちらはとか?」
そういうやり取りもありだろうが、それに使われるのは生きた女性だ。まあ政略結婚の大規模なものといえるだろう。
そういう貴族の口出しを好まない王が後宮を縮小傾向にしているらしい。
そして口出しをしたい貴族たち。後宮という華やかなイメージとは裏腹に殺伐とした舞台裏だった。
「それじゃ、またね」
手を振る姉の顔色が優れない気がしたが、真影はあえてそのことに触れなかった。
やり手の女官長がいるようだし、姉の健康に関しては、後宮女官達はかなり必死で見ているのだろう。
下手をすれば命がかかるのだ。
いったい何がどうしてこうなった。
いまさらながら自分たち一家の浮き沈みの激しすぎる運命を思った。
真影は手はず通り、後宮を出て、拝家に戻った。
しかし、手引きした人間無能すぎるだろうと、真影は迎えに来た、たぶん従兄だろう人間の顔を見ながら思った。
おそらく上級妃のいる場所までは監視は制約が厳しすぎたのだろうけれど、確実に上級妃の出入りのない下級妃のいる場所に手引きしてどうなるというものでもない。
まあ、後宮にはまず出入りできないので、上級妃がダメなら下級妃でというわけなのだろうが。
しかし真相を知ったらどうなるんだろう。
おそらく表沙汰にはならない。しかし、拝家は家の存続と引き換えにどんな無理難題を突き付けられるのだろうか。
それを思ってくすくすと笑いがこぼれる。
「何がおかしい?」
「いえ、これからのことを思いますと」
真影は誤解されるのを承知でそう言った。
やりたくもないことをやらされたのだ、これくらいの憂さは晴らさせてもらう。
拝家待望の拝家の血を引く上級妃、しかしその存在は拝家に恩恵をもたらさない。
それどころか、禍にしかならない。
そしてそれを今誰も知らない。
姉が何を悩んでいるか知らないが、保身のため知る気もないが、王は姉を手放す気はないだろう。
拝家は芍薬殿の血縁という事実だけ搾取される。
その際乳がどういう扱いを受けるかは知らないが。おそらくろくなことにならないだろう。
というかぜひそうあってほしい。
菫は、一人の男と引き合わせてくれた。その男が真影と王の連絡役になるらしい。
真影は王の密偵という役割を引き受けた。そしてそれを存分に楽しむつもりだ。




