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奈落

 美蘭は床に座り込んでいた。

 目の前には仁王立ちする王。

 じろりと睨まれると、さすがに身体がすくむ。

 真影は、着替えを借りて普通の格好をしている。姉の様子を見て見ぬふりをしている。

 さすがに自分が悪いと思っているので、それを恨むつもりはない。

「今の自分の立場を分かっているか?」

 上級妃で、正妃のいない今芍薬をやっているということは、この国で一番身分の高い女性ということだ。

 冗談のようだが、事実だ。

 しかしほとんど後宮の中から出られない子の現状は、その自覚をなかなか感じさせてくれないのも事実。

 やらかしたとは思うが、実感はわかない。

「申し訳ありません」

 とりあえず謝っておく。

 王は深々とため息をついた。

「もしばれたらどうするつもりだったんだ?。相手はお前に危害を加える予定だったんだぞ」

 そう言われたらどうしようもない。

「こっちで動く予定だったんだ、余計なことはするな」

「でも、一応自分のことだし?」

 父の親族というものが見たかった。何しろ父は天涯孤独と思っていたのに、いきなりわらわらと親族が湧いて出てのだ。

「そうだな、お前のいいところは、いらん口出しをする親族のいないところだったんだが、よりによって拝家とは」

 言われて美蘭は沈黙する。

「こうなったら、お前を排除しようとした証拠を押さえて、弱みを握っておこうと思う。お前としてもたとえ親族でも、自分に対して陰謀を企てた以上何一つ聞いてやる必要はないと突っぱねられるだろう」

「はい…」

 利用価値が減ったと言われて美蘭は目に見えて落ち込む。

「すべてこちらで何とかする、お前は、おとなしくしていろ」

 床に座り込んで、落ち込んでいる美蘭にさすがに哀れになってきた。

「あの、姉さん?」

「唯一の取り柄が無くなったってこと?」

 地を這うような声音だった。

 美蘭としても、元々臨んだ後宮入りではなく上級妃に出世したのも成り行き任せだったが、取柄なしといわれれば、今後に不安を覚えてしまうのも仕方がない。

 追い出されるなら別にいい、しかし、美蘭は洒落にならない国家機密を知ってしまったっ身だ。普通に開放はあり得ないだろう。

「別に、お前を排除するわけではない、どちらかというと拝家を排斥するだけだ、お前は今まで通りにしていればいい」

 王の言葉も耳に入っているのかどうか。

「おーい、姉さん、聞こえている?」

 さすがに地中深く埋まりそうな姉に、真影も心配になる。

「ああ、すまん、言いすぎた、そこまで落ち込むとは思わなかった」

 いつにない姉の様子に王は狼狽したが美蘭は気が付いた様子もない。

「しばらく様子を見ていてくれ」

 真影にそれだけを頼んで王はあわただしく退出した。

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