実力者
立ちくらみから立ち直った王は慌てて姉を連れ戻しに行くことにしたらしい。
芍薬の間に取り残された真影は適当な椅子に座って置いてある本を見ていた。
姉が戻ってこないと、着替える服がないのだ。
姉が読むとは思えないような小難しい本が何冊か置いてあった。妃になった以上、それなりの教養を身につけなければならないということか。
たっぷりと布を使った衣装は、身体にまつわりついて動きにくい。
しかも重い。結い上げられた髪にきっちりと刺さった簪が痛い。何もかもが辛い。
この格好をしているだけで疲れると真影はため息をついた。
芍薬の間の中は当然ながら豪華絢爛で、すこぶる居心地が悪かった。
おそらく姉も同様だと思うが、慣れというものは怖いものだ。
この部屋にある家具や小道具一つで自分の年収何年分だろうかと想像するだけで顔から血の気が引く。
お願いだから、早く戻ってきて、姉さん。
思わず祈ったが、まだ、誰も戻ってこない。
真影の祈り届かず、美蘭は目の前の女官と、意味深な笑みを浮かべあっていた。
「そちらの守備はどうなの?」
その言葉に、どうやら真影を(間抜けにも)送り込んできた連中の仲間だと判断する。
「参ったわね、上級妃と下級妃では使われている女官すら違うなんて」
実際上級妃のいる場所の女官と下級妃のいる場所の女官はまともな交流もろくにない。しかしそれくらい事前に調べておけばいいのにと思う。
しかもその境目は鍵のかかった扉で阻まれているので、出入りすらできないのだ。
しかし、先代の王と今の王では後宮のありようが変わったので、これは当代だけの処置なのかもしれない。
そんなことは美蘭にはどうでもいいが。
「こちらも入ったばかりなのでね、それで結果を出したらそっちの面目丸つぶれでしょう」
昔取った杵柄な対応をしてしまう。
短期間だけ、王名で密偵をしていた時の。
その時菫に喧嘩を売られたなあなどと思いだしていた。
「何事です?」
背後で声が聞こえた。下級妃、上級妃どちらの住処にも自由に出入りできるただ一人の人間の声がした。
女官長。後宮に住まうすべての女官の統率者、当然、美蘭の顔もよく知っている。
「そちらの人、ちょっと呼び出しがかかってますよ」
目が笑っていない。美蘭は軽く冷や汗をかいた。
女官長のすぐそばまで来た時、そっとささやかれた。
「とりあえず、あれは監視が付きます、それ以上のことはこれからです」
ばれていないと思ってなかったが。しまったと美蘭は思う。
後悔先に立たずとはまさにこのことだ。
「私は貴女様を叱責できる立場にございません、ですので、送り届けるだけでございます」
つまり失跡できる人に引き渡すというわけだ。
馬鹿なことしたなと美蘭はため息をついた。




