不幸な王
「なんで君がここにいる?」
両手をついて恭しく出迎えてきた相手の顔を見て王は顔をしかめた。
顔だけ見ればとてもよく似ているが、さすがに、妻とその弟の顔を見間違えるはずもない。
「話せば長いことながら」
「簡潔に」
なんとかごまかせないかと言葉をつづろうとした真影の気持ちをたった一言で打ち砕いた王は周囲を見回す。
「あれはどこに行った?」
芍薬の間は複数の部屋からなるちょっとした邸宅並みの面積がある。扉の向こうからうかがっているのではないかと思ったのだが。
「僕を身代わりにして、出て行ってしまいました」
思わず王の身体がかしぐ。
「違います、別れようとかそういう話ではないと思います、そうだったら僕をここに置いておかないと思いますし」
慌てて真影は、姉の行動を弁護した。
「それで何がどうなったんだ」
真影の襟首を締め上げながら王は詰問した。
「実は、拝家で、姉に冤罪を着せて、追い落とそうという計画が進行しているんですが、聞いてますか?」
「まだ報告は上がっていないな」
王の目が細くなる。
何かをうかがうような、それとも何かを見定めるような、それとも狙いを定めるようなか。
「それで、僕を手先として女装させて後宮に送り込んだんですよ、下級妃のいる場所にいたんですが、姉の知り合いだという人が、この部屋まで連れてきてくれて」
「今、あれの知り合いとすれば、菫か」
最初に後宮に入れた人員は既に王宮から消えている。そして春にいた妃達もすでに別の者達に下賜された後だ。
「ああ、姉もそう呼んでましたね」
王が小さく舌打ちした。
「それで姉に事情を打ち明けたら、それなら自分で見てくると、無理やり衣装を取り換えて」
真影の身体が落ちた、襟首から王の手が離れたのだ。そして再び王は立ちくらみをおこしていた。
美蘭は下級の女官服に身を包み、久しぶりに来る下級妃たちの後宮に来ていた。
以前密偵のようなことをしていたので、おおよその場所は見当がつく。
そう言えば、以前あった隠し部屋は居間機能しているんだろうかと、そのあたりの壁をいじる。
残念ながらすでに封印済みだった。
髪は一部を残してあとは、着物の中にたくし込んでいた。そのため背中が痒い。
美蘭は、真影がしていたように黙々と掃除をしていた。
よく考えてみると、今仕事をしていたとしても、そうそう拝家の人間が接触してくるだろうか。
少し考えなしだったかなと反省していたら、いきなり声をかけられた。
「貴女」
下級妃のところの女官だが、美蘭に見覚えはない。
以前いた時顔見知りの女官ではないと思われる。
顔を見た覚えがまるでないのだ。
「あ、どうしました?」
美蘭はとりあえずすっとぼけることにした。




