斜め上の遺伝子
真影はなぜか後宮にいる。
今真影のいるところは、下級妃がいるところだ。
別に真影は妃として送り込まれたわけではない。
女官服を着て、後宮内にもぐりこんだのだ。
拝家が手配したのだが、いったい何を考えているのかを思う。
しかし、ここが後宮かと何やら感慨深いものを感じる気もする。
後宮内に人を送り込んで、いろいろと手配をさせるというが、実は男の真影を送り込んでどうするという気もする。
下級妃は大広間にいるか、さもなければ自分に与えられた私室にいるらしい。
妃の数は少なく、ほとんど私室を出ることもないらしい。
「いや、特にみる気もないけど」
真影は、女官でも下働き専門なので、掃除や洗濯をすることになっている。基本的に妃のいないところで仕事をすることになっていた。
人気のない廊下を拭き掃除をしていると、見知らぬ女が真影の顔を覗き込んだ。
猫のような顔をしているとなんとなく思った。
「このようなところで、何をなさっているのです?」
本気で怪訝そうな顔をしている。
「あの、何でしょう」
この女は初対面のはずだ、なのに、なぜ真影のことを知っているような顔をしているのだろう。
「芍薬殿?」
「あれ、姉さんを知っているの?」
それを聞いて少し、おかしいと思った、姉と同期の妃達はすでに全員下げ渡しが終わっているという話なのに。
「姉さんというと、芍薬殿の妹ですか、しかし、仮にも妃の妹を女官として使うなど」
わけがわからないという顔をしている女に事情を説明すべきか悩む。
ついでに自分は男だと告白してもいいのだろうか。
「あの、事情があるのですが、手紙を書くので王に渡してもらえませんでしょうか」
携帯用筆記用具、竹筆、細く削った竹に住みをつけて書き物をする。
真影は常にそれを携帯していた。
拝家が芍薬殿追い落としを狙っている。そのための陰謀がある。それだけを素早く書くと目の前の女に渡す。
「私は、菫と申します、妃に紛れてほかの妃を監視するのが仕事でして、とりあえず、これは王に渡しておきます」
そう言って菫は去っていった。
これで拝家が採りつぶされたところで、真影は、痛くも痒くもない。
しかし、姉は斜め上の女だった。
真影はそのあとすぐに上級妃の後宮に連れ出された。
さすが上級妃、ちょっとした邸宅ほどの面積を一人で使っている姉は、真影を呼び出した。
「あんたもね、たまたま菫と出くわしたからよかったんだけど、うかつに話しすぎ」
そうダメ出しした後、さらっと言ってくれた。
「あっちがその気なら、あたしがあんたに化けてあっちに接触してもばれなさそうね」
にんまりと笑う。
「いや、髪が長すぎてダメでしょ、切るわけにもいかないし」
「任せて、ごまかす方法はいくらでもある」
「いや、ちょっと待ってよ」
「じゃあ、あんたここで妃をやっててね」
「だからちょっと待てえ」
キラキラした笑顔で姉は着替え始める。
止められないようだ。




