過去帳
芍薬殿、そう呼ばれるようになってだいぶたった。
傍らに控える女官達の存在にもだいぶ慣れた。
幼い頃から、手を荒らして仕事に打ち込んでいた日々を思うと、どうにも面はゆいが、これから先、たぶんずっとなので慣れるしかない。
今はだいぶ滑らかになった指先で、団扇を手に座っている。
目の前には平伏している官吏がいる。
どうしてこうなったのか、今でも思う。
「ご苦労様」
届けられた書類を受け取った女官が、美蘭にそれを渡してくる。
「下がりなさいな」
下級妃時代は数人の下級妃に一人の女官という割り当てだったので、こまごまとしたことは自分でやっていたが、上級妃、それも正妃の次の身分ともなると、一人につき女官数人という割り当てになる。
正直やってくれなくてもいいようなことも女官を通さなければならない。
受け取ったのは過去の後宮の資料だ。
先々代、現王の父親の時代のものだ。
現王が生まれた時点で、先王は既に成人していた。
妃の目録を見れば、上級妃が全員埋まっているのはともかく、下級妃が多すぎて、聞いたこともないような花の名前が使われている。
年齢も、正妃が、王と同年代なのはともかく、娘どころか孫という年齢の妃もいる。
母の後宮入りが決まった時点で、その孫の年齢だった。
ますます母を責める気持ちが無くなっていく。
実際子供もたくさん生まれているので、母がこのまま後宮入りして子供を産んだとしても大勢にさしたる影響はなかっただろうと簡単に想像できる。
まあ、先代の泥沼化の一端を担わなかっただけでも、この国に対して若干貢献したと言えなくもない。
先代は強欲な質だったらしい。かつて、死が違づいた王は、良心的な王は下級妃をせっせと下賜して、救ってやると聞いたことがあるが、見事に誰も下賜していない。
悲惨なのは、後宮入りして一月で王が崩御している妃だ。
そして数が数なので、問答無用で、死を選ばされている。
幽閉用の離宮も、神殿も数は有限なのだ。
下級妃の過半数箸を選ばされているが、上級妃は大体幽閉となっている。
例外は正妃だけ、母后として後宮に残っていた。
しかしそれも先代の泥沼の影響として変死している
「しかし、よく予算があったわねえ」
妃一人につきどれだけかかるか美蘭は計算してみた。そして総額を計算してみようとした。
そして途中で放棄した。
ちょっとした概算だけで、堤が一つ作れそうな金額になったからだ。
「なるほど、金がないんだ」
おそらく二代立て続けの浪費で国庫の金蔵は相当心もとないものになっているのだろう。
上級妃は美蘭一人、下級妃はもらう端から下賜してしまう。それもすべて金がないからなんだろう。
王が少し不憫になった美蘭だが、とりあえず、母をこういう扱いにした祖父への心証は最悪のものとなった。




