衝撃
とりあえず、頭を下げた状態で、話を聞いていることにした。
「あのバカ者のせいでどれほど我が家が恥をかいたことか」
片方が青筋を浮かべて言えば。
「ふざけるな、そっちの娘のせいで」
片方は顔を真っ赤にして怒鳴り返す。
双方互いに責任のなすりあいをやっている。物心つく前に他界した母のことを真影は全く覚えていない。姉もほんのわずかに覚えている程度だという。話を聞いた時にはしばらくその場にかたまって脂汗を流していた。
覚えているはずだ、覚えているはずなのに。そう何度も繰り返している。姉も母の人となりを説明できるほど覚えていないということだ。
常々無理だと思っていたが、一度母に聞いてみたいことがあった、どうしてあれと結婚したんですかと。
そして驚愕の真相が明らかになった。
「あの娘が駆け落ちなんぞしたせいで、こちらがどれほど恥をかいたか」
「駆け落ち……」
信じられない単語に真影は頭に岩が落ちたような衝撃を受けた。親の反対を押し切ってまでしてあれと一緒になったのかと。
芝居ではなく本気で床にのめっていると、さらなる言葉が。
「後宮行きが決まっていたのにその直前に駆け落ちなど、下手すればこちらの首が飛んでいたところだ」
後宮には今姉がいる。
母が行くはずだった場所にいるということを姉は知っているのだろうか。
とりあえず、後宮で暮らすのはあの父と結婚するほどつらいのか聞いてみたい。
とりあえず、話は分かった。しかしこの先どうしようか。
「とにかく、お前を孫とは認めないからな」
皺んだ顔は、自分にも姉にも似ていないようなそれとも昔は似ていたのかさっぱりわからないが、とにかく、真影としても認めてほしいわけではない。
それにしても、良く生き延びたもんだと自分でも感心する。
死罪になっていてもおかしくないのに。
とにかく、いがみ合う祖父たちを横目に真影はそそくさとその場を後にした。
「おい、お前どこに行く?」
「家に帰ります、ああ、明日の朝はちゃんと来ますよ」
この家に真影の寝床は用意してあったが、どうも落ち着かない。
寧州の寮の様にちょっとだけ新しい部屋になるくらいならともかく普請の段階で基準が違いすぎる部屋は落ち着いて休むどころではないと思った。
「おい?」
こそこそとした影を見つける、それが父親だと悟った真影は一足飛びに襟首をつかんだ。
「何をしているのかな?」
真影の静かな声、しかしそれが殺気をはらんだものだと悟っているのだろう。慌てて振りほどいて逃げようとする。
常日頃洗濯で鍛えた真影の握力はそれを許さない。
「いや、お前のためを思って」
そんな見え見えの嘘をつく父親を真影は険しい目で睨む。
「そんなわけあるかい」
とりあえず一発どついておいた。
自分だけでなく、姉にも制裁してもらおう。そんな決意を口には出さず誓った。




