一難去らずにまた一難
本来なら、妃は家臣の謁見などしない。
宴に王に伴われて顔を出す程度のことはあるが、基本的に表に出てこない。
例外は肉親のみが許されてすることぐらい。
たまに外に出るときは薄物を被って顔を隠していたり、絢爛と着飾り、がっちりと化粧を施した、素顔の分かりにくい姿となっている。
よって、彼らは妃の顔を知らなかった。
もし知っていたら別のリアクションもあったろうが。
真影は、拝家の本家にいた。
王宮ほどではないが、きれいな木目の木を使っていたり、壁はつやつやに磨かれていたり、細かな細工を施された飾り窓があったりと、金があるのをこれ見よがしにした家だった。
石造りの床に上等な敷物を敷いた上にその人物はいた。
拝家当主、拝甘英。
真影は目上の人物だからと膝をついて拝礼する。
そしてため息をついた。
はっきり言って、老けた父親にしか見えない。実の親子なのだから当たり前だが、甘英は父親そっくりだった。
いや、拝家の親戚が何人か本家にいたのだがその半数が父親に似ていた。
そのストレスは尋常ではなかった。
真影とその姉は基本的に母親似だった。父親にだったら、姉の後宮入りはなかったかもしれない。
あれは最低限の容姿を求められるものだからだ。
つまり拝家はそれほど養子に恵まれた家系ではないということだ。
それでもたまに突然変異か拝家ではないほうの親に似たのか、先代や、先々代に妃を出したこともあるらしい。
いや、拝家が把握してないだけで、今代も妃を出してはいるんだが。
これは言ったほうがいいか、言わないほうがいいかは何んとか姉に会ってからにしよう。
姉に会ってからならこれはもう姉の問題になる。
拝家が、姉に取り入ろうとしても、あの姉がやすやすとそれを許すとも思えない。
父親そっくりの甘英を見て姉がどういう反応を示すか、考えてみると、父親がやった最悪の斜め上はあの姉の芍薬就任なのではないだろうか。
知らないままで通すかそれとも知らせてしまったほうがいいのか、真影は思わず悩んだ。
甘英が何やらわけのわからないことを言っているがそれを聞き流しつつ真影は今後の展望をシュミレーションしていた。
不意に、玄関のほうから何事か騒がしくなってきた。
膝をついた姿勢から思わず頭を上げる。
騒ぎがだんだんこちらに近づいてきたのを感じた。
「お待ちください、いくら何でも」
「約束はなかったはずです」
そうわめいているのはさっき廊下であった親族たちだろうか。
どうしたものかとしばらく悩んでいると、扉が押し開けられた。
「あれを呼び戻したそうだな」
知らない老人が何だか怒り狂っている。
甘英より細身というか、甘英がやたら幅広い体形をしているんだが。
「そちらには関係ない」
「関係ないわけあるか、あれのせいでうちはどんな被害をこうむったか忘れたとは言わさん」
どうやら父の被害者のようだ。多分二十年くらい前の話だろうに、いまだ根に持っているとは相手が執念深いのか、それとも父のやらかしたことがよっぽどひどかったのか詳細不明だが、一番可能性が高いのは両方ではないだろうか。
「うちの娘をたぶらかして、我が家に泥を塗ってくれて」
「黙れ、あれはそっちの娘がうちのを唆したのだ」
娘って誰?父が誑かしたとか、あれ。
嫌な予感がした。
「とにかく、私はこいつを孫とは認めんからな」
それは別にいいです。
真影はさらに状況がややこしくなったことを知った。
どうやら母方の祖父が訪ねてきたらしい。
本当にどうしようねえ、姉さん。
はるか遠い場所にいる姉を思って頭を抱えた。




