帰郷
「ああ、海が青い」
真影は天暁に向かう船の中。
長官に連絡を取ったが、こうなったら芍薬殿と今後のことを話し合ったほうがいいと言われた。
あちらで何か便宜を図ってもらえるんだろうか。
「しかし姉さん、怒るだろうなあ」
父親の所業に、怒り狂う姉を思って真影はため息をつく。
ブチ切れた姉は手に負えない。なまじ護身術を会得しているだけに暴れだしたらうかつに止めに入ることは無傷で済まないということを意味する。
父が半殺しになるぐらいなら見ないふりをしようと真影は思った。
しかし王の寵姫が拳で語るのはいかがなものだろう。
「おい、何をぼうっとしているんだ」
真影の従兄にあたるらしい相手が尋ねたが、真影は無言で首を振る。
そういえば、天暁にある実家はどうなっているんだろう。
一度確かめに行かないと。
天暁の街をてくてくと歩いていた。
王宮には明日行くことになっている。
久しぶりに歩く天暁は相変わらずだった。
いや、天暁はこんなにも賑やかだったろうかとしばらくぶりの市街地を眺めた。
寧州では異国情緒あふれる民族衣装を身にまとった人が良く歩いているが、ここはそんなこともない。
「しばらくいるだけで、感覚が変わるもんだな」
そう思いつつ、親しくしていた隣家に手土産を持って訪れた。
「あら、真影ちゃん、元気だった?」
隣家の主婦は相変わらず元気そうだ。
ふくよかな顔に笑顔を浮かべて真影を迎えてくれた。
「はい、そちらもお元気そうで何よりです」
寧州で買った、この辺りでは流通していない乾燥果物を渡す。
「本当に真影ちゃんはできた子よねえ」
「あの、父はどうしていますか?」
聞きたいことをさっさと聞く。
「それが、最近帰ってきてる様子がないのよ」
不意に声を潜めた、それに不穏なものを感じる。
「別に、人相の悪い人間があたりをうろついたりするようなこともないんだけど、これと言ったこともないのに、行方をくらますなんて」
どうやら父はこの辺りにはいないようだ。
「そうですか」
だとすれば、拝家の本宅にいるのだろうか。
下級官吏である父が王宮に出入りできるはずはないし、下級官吏から上級へは、以前ならともかく今は貴族のごり押しで何とかならないようになっている。
すぐ近くの自宅は玄関に雑草が生え、中をうかがうとうっすらと埃がたまっている。
奥のほうに父の私物が散らかっているが、荒らされたという風ではない。
片付ける姉がいないときはいつもこうだった。
「どこに行ったんだか」
ここにいても収穫はないと、真影は自宅を後にした。




