斜め上の男
いろいろ疑ったが、結局相手は何も知らなかった。
どうしてこういうことになったのかと聞けば何のことはない、真影は父に売られたのだ。
優秀な長男の身柄と引き換えに実家になにがしかの援助を訴えたらしい。
一応上級管理になる試験に、若くして合格しているし、さらに、今年は拝家は、ただ一人の合格者が出なかったのだ。
理由は言うまでもなく、不正合格を禁ずる法律の是正だ。
その法律が是正されたのは自分が原因らしいと薄々察しているので、なんとも胸がもやもやする。
とにかくいないよりましと真影に白羽の矢が立ったらしい。
甘かった、と真影は唇をかみしめる。
物理的に離れたぐらいで、あの父親の悪影響を逃れられると思った自分が嘆かわしい。
父の実家の拝家が、どう出るのかわからないが、これから自分の進路を捻じ曲げようとしているのはわかっている。
「申し訳ありませんが、寧州に居りますのは上の指示ですので、自分の一存ではどうしようもないのですが」
天暁に戻るまでには最低で五年、これは動かないはずだ。
「それはいい、こちらで手配しておく、明後日には天暁に出発してもらう」
「あの」
寧州長官の許しはあるのか、そう問い質そうとして、真影は口をつぐむ。
うかつな言葉は藪蛇になる可能性がある。
本来、なり立ての官吏が、長官と面識があるなどありえない話なのだ。
幸い一日余裕がある、李柴源に話を聞いてもらおう。
箸をおいて、真影は手を合わせて一礼した。
李柴源は嘆息した。
「困ったことになりましたねえ」
「拝家に話は通していないのですか?」
「藪蛇になりそうなので、全く話を通していないらしいですよ」
姉が後宮入りしたときに話を通していれば、助教はもっとややこしいことになったろうと真影は考える。
なんでも、二十年ほど前の不始末の影響を今も引きずり続けているので、どんな伝手でもほしいだろうと思われる。
「その不始末が、勘当の理由なんですけどねえ」
言われて真影は倒れそうになった。
以前、姉を上司、父親より年上の妾にしようとして騒ぎになったことを思い出す。
その上司をこっそり社会的に葬り去るためにどれほど面倒なことになったと思っているのか。
まあ、実の娘より若い妾をほしがるだけあって、いろいろと問題を起こしているらしいが、そんなものを娘にあてがうのかと、父親も抹殺するべきかと悩んだ。
姉が、合格するまでは、利用価値があるまでは生かしておけ、今は待てと説得してくれなければ確実に実行していた。
「なんでも斜め上の男と呼ばれていたそうですよ」
李柴源が、そう教えてくれた。
「斜め上?」
真影が首をかしげる。
「あれがかかわれば、常に最悪の事態を覚悟しておけ、奴は必ずその斜め上に行くと言われていたそうです」
その通り過ぎて何も言えなかった。




