招かざる客
「平和だ」
真影はそう呟く。
寧州に来て早半年を過ぎ、真影は、コツコツと経理部で働いていた。そして仕事合間の昼食を食べながら真影は平和を満喫していた。
「毎日仕事をして、ご飯を作って、それだけで日が過ぎていく」
「いや、それはお前、ちょっと悲しんだほうがいいぞ」
そう言ったのは金武だ。
「もうちょっと色気がほしいと思わんのか」
真影はもうすぐ十六歳、お年頃のはずなのだが、女っ気はまるでない。
真影の女顔が災いしている可能性もあるが、難関を突破して、将来は保証された青少年にまったく女っ気がないのは少々異常な事態だった。
「いや、お前がいいならいいよ、だけどなあもうちょっと」
「いいのいいの、僕は仕事に生きるよ」
真影はそう言いながら、米麺を使った料理を食べていた。
「河真影だな」
いきなり声をかけられて真影は固まった。
そういえば先日姉のことで、王直属の偉い人が訪ねてきたが、確か、丸く収まったと手紙で教えてくれたと思うが、また蒸し返されるのか?
ギギギと音がしそうにぎこちなく、首をまわした。
「はい、そうです」
そこにいたのは、たぶん確実に初対面の相手だった。なのにどこか既視感がある。
よく見れば、父親に似ているのだ。
「分家の河家の真影だな」
そういえば、父親の親戚に一度も会ったことはなかった、そもそも存在すら知らなかった。
「本家ってどちらですか?」
河家が分家であり、本家は全く違う名字を名乗っているらしい。
「拝家だ」
宗教界に人材を輩出している家系と言えば聞こえはいいが、子沢山で財産争いの機会を減らすために三人目以降の子供は宗教界に入れているのだとか。
父はぎりぎり三番目だったが叩き出された。
父がどうして本家と疎遠なのか、ちょっと考えただけで心当たりがありすぎた。
「それで、僕に何の御用で」
米麺を食べる手を止めて、相手の出方をうかがう。
「そういえば、お前の姉の嫁ぎ先はどこだ?」
真影の頭からざっと血の気が引いた。
姉の嫁ぎ先を知っていて恍けているのか、本当に知らないのか、そのいずれかで対応がまるで違ってくる。
「知りません、姉は、王宮で、上司に口説かれた、嫁に行くと言い残してそのままいなくなってしまったんです」
とりあえず、噓をついておく。嘘をついて反応をうかがう。
「さすが、共洪の娘だな、あるいは、あの共洪から逃げるためそうしたのか」
何をやったと父を問い詰めることはしない。どうせ聞いたら後悔するようなことに決まっている。
「だが息子は意外に有能だったようだな、その功績をたたえて、本家に戻してやろうというのだ」
「いえ結構です」
思わず口をついて出た言葉は間違いなく本音だった。
「妙なことを言うな、お前に拒否権はない」
やっぱり姉の嫁ぎ先を知っているのかと真影は疑った。




