後宮の茶会
翌日、真影は後宮の裏手にやってきた。
裏手はやっぱり、質素だった。
通り抜けてきた庭園がかなり豪華だったので、ちょっと期待したが、下働きのいるような場所は簡素に作ってあるのはどこも同じようだ。
途中通ってきた庭園はとても豪華だったので少し拍子抜けした。
「こちらに持ってきた巻子を改めてください」
年配から若い人まで、お揃いの女官服姿で作業机に名札を置いていく。
真影は自分の名札のある場所に座る。
そして柴源の名札がないことに気付く。
「ああ、私は書記としてお茶会の卓に座るんだよ」
あっさりと返された。
「見習いでもいいのか」
漢途が思わず詰め寄る。
「たぶん基準は年齢だと思うよ、三十前の人は全くいない」
漢途が舌打ちをする。圭樹も気持ちは同じだろう。
「芍薬殿を見たかったのに」
「見たら目がつぶれるかもしれないよ」
冗談めかして言ったが、あまり冗談には聞こえなかった。
来客は基本的に学者さま。そのため状況はほとんど老人会といってもいいような状態になっていた。
書記として派遣された李柴源は会話に耳を傾けながら、横目で芍薬の妃の様子をうかがう。
芍薬の妃は織模様の美しい衣装をまとい、髪にはその細い首でよく支えられると感心するぐらいたっぷりと飾りをつけ。その場にたたずんでいる。
高価な紅を塗られた唇は薄く笑みを刻んでいる。
王の寵愛を独占する寵姫という肩書の割に、その姿は美しいというよりむしろ愛らしいと言ったほうがいいだろう。
滑るような足取りで、柴源のそばの卓に来た。
「楽しんでいただけまして」
声は結構甘く響く。
いろいろと専門的な話を理解しているのかわからないがにこにこと笑って聞いている。時折、感歎のため息のおまけつきだ。
とにかく相手を気分良くあしらっている。
時折、女官にお茶や菓子類の不足を指摘し、追加を命じる。
油断なく周囲に視線を走らせている。
女官たちの動きもスムーズだ。
どうやら無能というわけでもないらしい。あちこちの卓を回り、談笑しながら話を弾ませている。
まるで職業接客業者のようだ。
にしても内容が脈絡なさすぎだろう。
会話を楽しんでいる学者たちはあきらかに専門分野が違うものばかりを集めている。
それでどうなるかと思っていたがいたって和やかだ。
学者というものは好奇心が旺盛だ、自分にない知識を得る機会というものを非常に好む。
そして、自分の話を興味を持って聞いてもらうのもとても好むものなのだ。
というわけで周囲は利害の一致した学者たちが幸せそうに話をしたり聞いたりしている。
だが書記をしているほうはたまったものではなかった。
話題がどこに飛ぶのかわからないのだ。
ある頑丈な蔓草の話から、堤防の強化へと話が続く。
これは清書する法は大変だなと柴源は思いながら手を進めていた。
唐突に怒号が聞こえてきた。
隣り合わせの卓同士で言い争っている。
芍薬の妃はゆったりと立ち上がる。
「お手並み拝見」
柴源は声に出さず呟いた。




